07. アタシより先に消えたあの子は、果たしてどこまでを知識として得てここへやってきただろうか? あの子より後に消えたアタシが知っていて、あの子が知らない事を教えるべきなんだろうか? 二十日という時間の中、アタシはそれをどうするか迷っていた。 再会する間での出来事を聞いた限り、アタシと違って事が大きく変わった様子ない。 ───── さてどうしたもんか…。 とはいえ、アタシがあの子よりも知っている事は大した情報ではない。 だから余計な情報を与える事は無駄にあの子を混乱させるだけだろう。 それが判っていながらも、教えるべきかどうか迷っているのには理由があった。 極端に体力の無い今のあの子が尸魂界へ行く前、いっちゃん達と一緒に行く為に努力した事。 その努力は自分一人ではどうにもならないから ───── と彼等を頼った事。 今から先に現れる彼等と既に接触をしたあの子に、過去の事実など必要ないかもしれないけれど。 ───── あの微妙な関係見てるとなぁ…。 喜助ちゃんとあの子の、もどかしいを通り越してイライラするような微妙過ぎる距離感を見てると どうにもどうにかしてやりたいような、そんな気持ちが沸いて。 過去に起こった事を知ったからといってどうなる訳でもない。知らない方が良かった、と、思うかもしれない。 それでもやっぱりあの微妙な距離感や微妙な関係に気付いてしまった以上、 ───── 肝心な事だけ簡単に言えばいっか。 アタシが起爆剤になってあの距離感を縮めてやろう。そう決意した。 まぁ、簡単簡潔に言えば面白い事になりそうな気がしたからなんだが。 ───── おし。早速やるか! 思い立ったら即行動!って事でアタシはあの子を浦原商店地下へと連れ出し、 事細かに ───── ではなくかなり大雑把に一部を伝える事にした。 「そっか…。」 「回想だしね、こればっかは見聞きしなゃ知りえない事になるだろうしね。」 「うん。」 何故浦原喜助が現世に追放される事になったか? 何故平子真子達が被面の軍勢となったのか? アタシはそれを簡単に説明した。全てはあの男の策略によってハメられた結果だという事を。 ぶっちゃけるとアタシ自身、事細かに説明できる程キッチリ覚えてなかっただけの話だが。 「そりゃさ?いつかは話てくれるかもしれんだろ喜助ちゃんも。」 「そうかもね…。」 「でもさぁ、その何時か?ってのが20年も30年も先だったらアンタ完全に”いきおくれ”よ?」 「いきおくれって何!?」 「まんまよ、そのまんまの意味。」 「なっ、何でアタシが!!」 アタシが推測するに、二人ともどっからどうみてもどっちもハッキリしないっつぅか 黙ってても何時か思いは伝わるもの ───── って乙女思考臭い。 そんなもん、どっちかだけならともかくどっちもとか一生伝わらんに決まってる。 「言葉にしないとな?伝わらない事もあるって事よ。」 「何悟ってんの!?お姉ぇだって似たようなもんじゃないの!」 「は?何言ってんの。アタシは今関係ないの。」 「関係なくないしっ!お姉ぇだってどうせカカシ先生に酷い事してんでしょ!」 「おいおいおいおい、酷い事って何だ酷いって。」 「どうせ酷い事言ったり酷い事したり、言いたい放題やりたい放題してんでしょ!」 何故知ってる!? 「お姉ぇこそ素直になんなきゃダメなんだって!」 っていうか、何でアタシが諭される側に居る訳!? 「お姉ぇ、もう帰るつもりないんでしょ?お兄ぃが残ってる向こうにもう未練ないんでしょ!?」 「そりゃアンタ、アイツもう立派な大人だし心配する事もねぇし別に…。」 「だったら余計じゃないの!収拾つかない程に話引っ掻き回してんだから素直になろうよ!」 「ぐっ…。」 図星過ぎてぐぅのねしか出ない。 そりゃアタシはやりたい放題やってますけど一応覚悟の上でやってるんだし? 「アタシはお姉ぇみたいに強くなれない。そこまでの覚悟が出来なかったから。」 「や、アタシは別に責めてる訳じゃなくて…。」 「でも、アタシはホントにここに居て良いんだってやっと判ったから…。」 マズイ。非っ常にマズイ。何かアタシが一方的に苛めてる図が出来上がってんじゃねぇか! 「お姉ぇ気付いてた?何でお兄ぃがあんなに早く結婚したか。」 「気付かない訳ねーだろ。」 「お姉ぇに自由に生きて欲しいから ───── っだから結婚したんだよっ!?ゲイなのにっ!」 えっ!? 「お兄ぃだってホントは結婚なんてしたくなかったと思う。でもいい加減お姉ぇに自由になって欲しいから!」 「や、ちょっと落ち着け。ほら息吸ってー吐いてー…。」 「茶化さないでよっ!」 「茶化してねぇし!っそれにアンタ誤解してるから。」 「してないっ!」 「アイツ、ゲイじゃなくてバイだから。」 「へ?」 「したくない結婚するようなタマじゃねぇよ。取り合えず面倒だから結婚したんだって。」 っていうか今、ゲイとかバイとかどうでもよくね? 「お姉ぇ知ってたの!?って女の人でもイケたのお兄ぃ!?」 「そう。」 「っていうかお兄ぃの事はどうでもいいの!」 話振ったのお前だろ!! 「心配してるよ?」 「誰が?」 「カカシ先生。」 「(そっちかよ!)」 「お兄ぃはそのうちケロっとしてその辺りに現れそうだからいいとして。」 いいのか…。 「一生あの里で生きてく覚悟決めたんならさ?幸せになろうよ…。」 「十分幸せだけど?」 「何言ってんの!?」 「怒鳴るなよ…。」 「女の幸せを求めろって言ってんの!折角アタシと変わんない程に若返ってんだから枯れるなって言ってんの!」 「誰が枯れてんだっ!」 「子供にかまけてばっかで異性を全然相手にしない時点で枯れてるって言ってんの!!!」 「酷ぇ言い草。」 「酷くないっ!」 「それを言うならアンタこそ!じゃね?」 「だからアタシはいいの!」 「考えてもみなよ。カカシ先生以上の優良物件が存在すると思ってんの!?」 「アンタ、上手い事言うねぇ…。」 「事実だから。」 「でもアンタ、サスケ贔屓だったじゃん。」 「それはそれこれはこれ。好きだけじゃ幸せにはなれないから。」 いつからこんなシビアな子にっ!? とてもじゃねぇが妄想世界の中でアタシは生きて行けるの!って力説してた奴とは思えん…。 「深く関わったならそれも縁なんだからさ…。」 「そっくりそのままアンタに返してあげるから。」 「じゃアタシが頑張ったらお姉ぇも頑張る?」 「えっ!?」 「アタシが野生の虎の如く喜助さんに猛烈に特攻したらお姉ぇも頑張る?」 「ちょ、何もそこまで頑張らなくても…。」 「お姉ぇは淡白すぎるの!少しは獲物を狙う鷹を見習って気合入れようよ。」 虎なのか鷹なのか、どっちがいいんだ一体…。 「考えてみなよ。もしカカシ先生と結婚して子供を儲けたら確実にあの髪色は子供に受け継がれて リアル水鏡ちゃんが生産される訳だ。んでもって人目憚らず可愛がりたい放題し放題。 上手く女の子とか作っちゃったりして?その子達がもしかしたらサスケやナルトやシカマルなんかと結婚したら ホンモノ家族が出来上がる訳だし?一生左団扇確定よ?夢の楽園じゃないっ!」 最後の台詞はちょっと違うと思うんだが。 「ムリにとは言わないよ?ただちょっとだけお姉ぇの適当さを男女の恋愛にも活かして歩み寄ればいいだけだし。」 「アンタ…。」 結局何をどうしろって言ってんのか理解不能だわ。 「まぁお姉ぇは不器用だから、帰ってから時々アタシとの会話を脳内で再生してくれれば…。」 「再生すればどうなると?」 「確実に面白い事になる筈だから。」 「……………お前。」 結局、アタシがした事はクソの役にも立たなかった上に面白がるつもりが面白がられた挙句、 精神的ダメージを喰らわされただけとなった ───── が。 このアタシがやられっぱなしで終わると思うなよ? -------------------- 2010.01.27 ← □ →