08. ───── このアタシがやられっぱなしで終わると思うなよ? と、思ったところで仕返ししようにもイイ案が思い浮かばない。っつぅか、そんな事してる暇はなかった。 そう、二十日なんてのはアッという間に過ぎ、いよいよアタシは実験台へと上がる事になった。 といってもただ義骸に入るだけなんだけど、如何せんそんな経験は無いアタシはその作業に四苦八苦。 よもや義骸に入るのに一週間も要するとは誰が想像しただろうか。(アタシは想像しなかった。) そして、さらに数日掛けてスムーズに練習用義骸に入れるようになった事で迎えた本番。 「で?入った後はどうすりゃいいの?」 「何もしなくて結構っス。義骸に呪印が定着した瞬間にアタシが出しますから。」 「あっそう。」 「お姉ぇ頑張って!」 「落ち着いてやりゃ楽勝だって!」 「はいはいどうも。」 義骸に入るだけの事に応援されまくる中、アタシはいよいよその時を迎えた。 「おし、んじゃいく。」 「いつでもどうぞ。」 練習用とは違う違和感を感じながら、同じ要領で義骸へと己の魂を定着させる。 その感覚を例えるとするなら、イカの内臓を引きずり出すのと逆って感じだろう。(判り難いか!?) そして、義骸に自分の魂が定着した事をハッキリと自覚した瞬間 「ぐぇっ!?」 「出たっ!」 「どうなった!?」 「成功したみたいっス。」 押し出されたような突き出されたような感覚と共に、アタシは義骸から強引に出された。 足元にバタリ転がる義骸の肩口に呪印を残して。 「何つぅか、マジいい加減だよな…。」 こんな簡単に呪印が取れてもいいもんなのか!?でももういいか別に…と、諦めにも似た呟きが 零れそうになったが。その瞬間に起きた出来事に流石のアタシも息を呑んだ。 「危ない所だった、って事っスね。」 「危なすぎんだろこれっ!」」 「っていうか、冗談になんないよ…まさかとは思うけど…。」 「恐らく限界だったんじゃないっスか?後半日遅れてたらこうなったのはサンだった…という事っスよ。」 「ははは…まっ、間に合ってよかったよな。」 「あははは…っそ、そうだよね!」 一瞬にして黒一色に変化し塵と化して消えた義骸。間に合ってよかったねぇ…って笑う二人とは違って アタシは全然笑えねぇよ い や マ ジ で 。 一歩間違えりゃアタシが消炭。いくら助かったギリギリセーフだったからってホント笑えねぇ。 「それより、問題があるんスよ。」 「今度は何!?」 「問題?特に目に見えて ───── ぇっ!?」 「ちょ、っそれ!?」 「だから何!」 「サン、身体が透けてきてるっスよ。」 「 ────────── はぁっ!?」 言われて慌てて自分の姿を見て、再び息を呑んだ。足元辺りから確かにアタシの身体は透け始めてた。 ただ、それに対して恐怖感とかそういう危機感は全くない。つまり、そうなんだろう。 「ちょっと待って!このままお姉ぇ消えちゃうの!?」 「浦原さんどうなってんだよっ!ヤバイじゃねぇか!」 「消滅消失とは違う感じなんスよ。恐らくは…。」 アタシは帰るんだろう。ここではない何処か ────────── アタシが帰るべき場所へ。 「来た時も唐突だったけど帰りも唐突過ぎだわこれ…。」 「や、お姉ぇ何落ち着いてんの!?」 「いくらなんでも急過ぎんだろ!?」 「そんなもんだろ。でも………。」 「お姉ぇ…。」 「ねーちゃん…。」 「皆に宜しく伝えといて。また来れる事もあんだろうし。」 「暢気過ぎっ!せめて遊子と夏梨がっ!」 「そうだよっ!あいつら絶対泣いちまう!」 「こればっかはどうしようもないって。」 二人が騒ぐのは、アタシが帰ってしまう事に対しての反応だから嬉しくない筈はない。 必死で引きとめようとしてくれる姿が嬉しくて仕方ない。 「待たせてるからね、一回帰るわ。」 けれど、やっぱりアタシはこの場所よりも居たい場所がある。 「ありがとね、楽しかったし逢えて良かったわ。」 唯一心残りだった幼馴染がここで本当の家族と一緒に暮らせてる事を知れた事は 間違いなくアタシの心を軽くしてくれた。 おまけに血の繋がりがあったってオマケまで付いて呪印まで消してくれて、アタシにとって ここはパラダイスですか!?って言える位、いい事ばかりで。 「絶対また来てよねっ!」 「約束は出来ないって。方法知らねぇし。」 だからこそ約束は出来ない。方法が判らない以上、中途半端はしたくなかった。 それに、あっちとこっちをそう簡単に行き来出来たらやっぱつまんないだろう。 「今度は絶対誰か連れてきてよっ!」 「お前目的はそれだけだろっ!」 「絶対また来てよっ!」 八割方消えてるアタシはもう実体としてここに無いっぽい。 必死でアタシの手を掴もうとするあの子の手がアタシの身体をすり抜けていく。 だから最後に言わなきゃならない。大切な事を、最後に一言だけ。 アタシは一人離れた場所で傍観する彼に近寄り、預けていた大切なものを貰い 『お礼にイイ事おせーてあげるわ。あの子はね、ずっと 』 「!?」 それだけを伝え、短いようで長く、けどやっぱり短かった二十日+一週間+二日の合計二十九日を終え、 この世界を後にした。だから 「喜助さんっ!」 「何スか!?」 「お姉ぇ最後に何言ってたの?」 「俺達に聞えないように何か言ってたよな?何言ってたんだよっ!」 「秘密っス。」 それが結果として仕返しになった事は知らないまま ────────── 。 -------------------- 2010.01.28 ← □ →