序.03 (確かにアレはちょっと怪しいね…。) 見掛けた事のない恰好の、怪しい女が一人街に現れた。 そんな連絡が入った直後、直ぐに報告のあった場所へ向かってみると、 確かに女はその場所にいた。 歳の頃は17〜8といった所か? 何かを手にブツブツ呟きながら、フラフラヨロヨロ歩く女。 いきなり捕えてもよし、泳がせて様子を伺ってもよし。 見掛けは怪しいが、特に目立った動きをしている訳でもない。さてどうするか?と 呑気に構えていたのが間違いだった。 女が突然その動きを変え、周りの目を避けるように急ぎ足で何処かへ向かい始めた。 (どこかの間者か?もう少し泳がせて…) 確たる証拠を押さえてから捕えた方が後々の為になる。 そう決め、もう暫く女を泳がせる事にしたのだが。 女は公園に着いた途端ベンチに座り込むと、見たこともない荷物から何かを取り出し (仲間を呼ぶつもりなのか!?) 何かに火をつけそれを合図に!?と思ったのだが。 火をつけた何か、はどうやらタダの煙草らしい。 女はそれを大きく吸い込み、溜息と共に吐き出している。 (相当悩んでるようだけど…) 女を自分と置き換え、行動の意味を探る。 自分がもしあの女の立場で、あんな風にするとすれば (目的の何かが発見できなくて困ってる?) 接触したい何か、たとえば人であり物であるそれを発見出来ない時、 溜息の一つも出るかもしれない。 (相当怪しいねあれは) 一見した感じはただの一般人。 けれど、それがあからさま過ぎて余計怪しく見える。 気配を消さないのは油断を誘う為? あからさまな怪しさを隠そうともしないのは、見張られている事に気付いているから? だとすれば、今捕えるべきかもしれない。 そう、判断してクナイを手にした瞬間 「馬鹿な…」 自分の目ですら捉えられない速さで女はその場から忽然と姿を消した。 目を離したつもりはない、なのにその瞬間を捉える事すら出来ないなどありえない。 「マズイな…」 上忍である自分が油断してしまうほどの手練れが街に紛れては探す事が困難になる。 「探すか…」 夜に紛れて行動を起こすつもりで身を隠したのかもしれない。 だとすれば、辺りが闇に包まれた時が相手にとっても自分にとってもチャンスだ。 気を引き締めなおし、夜に行動を起こすべく準備を整え時を待ったのだが。 結局、一晩中探し回ったにも関わらず、女の姿を捕える事はなかった。 (当り…だな) 予感、などというあやふやな物は信じるタチではなかったが、何故かその時だけはそれを信じ、 信じた結果、それを再び捉える事が出来た。 もしかすると、時間と場所に何かあるのかもしれない。そんな漠然とした予感に突き動かされるように、 昨日と同じ時間、同じ場所で様子を伺っていると案の定女は再び現れた。 そして前日同様、大きな溜息をつき、煙草を吹かす謎の女。 けれど、前日とは決定的に違う事が起きた。 自ら女に歩み寄る影が見える。 (仲間か!?) 何処の者かすら判って居ない内から仲間まで増えられては正直厄介だ。 接触される前にどちらかを捕える必要がある。とクナイを手に、後から現れた方から片付けようと 身を乗り出した時、姿が目に入る。 (あれは…) 記憶の隅にある、見覚えのある子供と目の前現れた子供の姿が重なった。 という事は、女が仲間を呼んだのではなく、女は子供を誘い込んだのかもしれない。 (マズイ!) 狙いはおそらく、子供の中にある九尾だろう。 それを狙い、他国の忍が里に侵入し、子供を狙ったのであれば、納得がいく。 (女を先に殺るか、子供を優先するか…) ほんの数秒、それを考えただけの時。 女は何かする訳でもなく、二言三言子供と会話を交わし (帰らせた?何故だ!?) 子供を攫うでもなく、殺めるでもなく子供を帰らせた。 (やはり気付かれて…) 自分が昨日から見張っている事に気付き、油断を誘う為の芝居をしているのかもしれない。 クナイを握る手に自然と汗が滲み、久しぶりに感じる恐怖にもにた緊張感に、知らずに息を呑み、 飛び出した瞬間だった。 「馬鹿なっ!?」 飛び出す寸前、女へ向かって投げたクナイ。 それは、確実に女の致命傷となる心臓へ刺さる筈だった。 それが、地面に突き刺さっている。 クナイを投げ、飛び出した瞬間女は再び忽然と姿を消していた。 「報告が必要だな…。」 アレを野放しにするのはマズイ、と直感が告げていた。 上忍であり、他国からも恐れられている自分が二度も撒かれたのだ。 「いや…やられっぱなしってのは…」 あの、謎の女を捕えるにはそれくらい上忍レベルの忍が必要になるかもしれない。 けれど、こうも相手のいいようにあしらわれている事実が自分の闘争本能に火を付けた。 「明日だ。明日決着を付けてやろうじゃないの。」 影すら捕える事なく地面に刺さったクナイを引き抜きながら、 気を引き締めなおしながらもどこか楽しんでいる自分。 けれど、それが大いなる勘違いであり思い込みであったと気付くのは、少し先の話になる。 -------------------- 2008.08.16 ← □ →