本.01 狐でナナシでカカシの野郎と別れを告げ、無事戻ったアタシを待ち受けていたのは 玄関先で眠るナルトだった。 まさかコイツ、アタシが戻ってくるのを一晩中玄関先で待ってた訳か!? 「ナルト、ただいまーってか起きろ!ナルト!!」 「ん…まだ眠いってばよ…」 「でも朝よ?遅刻するぞ〜…」 「ん…ぁ?あ…ねーちゃん!?」 「ただいま!そしておはようナルト。」 「いつ帰って来たんだ?」 「今帰って来たとこさ。んでもって、これからココに居座る事になったからヨロシク!」 「え?居座るってどういう意味だってばよ?」 「ともかく起きろ、そして顔を洗って来い。」 「わ、わかった!」 適切的確な表現をするとしたならば?愛いヤツじゃ!とでも言いたい気分だった。 アタシ的には昨日出逢ったばっかで、それこそ見ず知らずの女だってのにナルトってば ちょっと猜疑心少な過ぎやしないか?これは。 バタバタと着替えを済ませ、顔を洗ってアタシの所に来たナルトは 「さっきのどういう意味なんだ?オレよく判んねぇかも…」 「どうせナルト、一人暮らしでしょ?アタシ行くトコないし、ここにお世話になろうと思ってね。」 「っでも…」 「三代目のジーサンだっけ?OK貰ったよ?だからアンタがいいって言ってくれたら助かるんだけどなぁ。」 だが断る!とか言われたら逆に困る。 冷静に考えれば、確かにアタシはナルトに拾って(?)もらってココに来た訳ですが。 昨日限定だったかもしんないし。 「っオレは…ねーちゃんが構わないってんなら…いいってばよ…」 「OK、じゃ今日からナルトとアタシは家族…っていうのはまだ早いか。」 「!?」 「ともかく、そうだな…明日休める?」 「休むってどこを?」 え?どこって聞かれたらちょい困る。 学校だっけ?忍術学校だとかそういう表記だっけか? 「朝起きて顔洗って朝飯食った後にアンタが行く所?」 「アカデミー?」 「それだそれ!今日いきなりは休めんだろうし、明日休むって先生に言ってこい。」 「判ったってばよ!でも明日何すんだ?」 何ってアンタ、やる事ぁ一つに決まってんだろうが! 「掃除洗濯ゴミ出しに買い物に色々やんの!アタシ一人じゃ無理だから。」 「判った!ちゃんとイルカ先生に言ってくるってばよ!」 「んじゃ朝御飯…何もないし…今日は適当に行って貰えると助かる。あと…」 「あと?」 「アカデミーって終わるの何時頃?帰ってくる時間は?」 「三時頃には終わって、真っ直ぐ帰ってきたら…」 「判った。じゃともかく今日は適当に行ってらっしゃい!」 戸棚?らしき場所からパン?みたいなもん取り出して、それを口に咥えたまま 慌しくアカデミーへ向かったナルト。 しかし、だ。この部屋の何処から手を付けりゃ片付くんだろうか。 ゴミ出す日とか、分別とかあんのかこの里は? と、考えてても仕方ない。 台所で使い捨て状態になってる皿から片付けよう、そう決めたアタシが水道の蛇口に手を掛けた時だった。 コンコン 玄関の扉をノックする音が聞こえてきた。 その音に、記憶覚めやらぬ昨日の悪夢が蘇る。 さて、どうしたもんか?と悩んでいたら コンコンコン 早く出て来い!と言いたげなノック音に変わる。 おそらくこれは、このまま放置したら… ドンドンドンドン! げ、案の定じゃねーか!ま、まさか扉開けた先に待ってるのはアイツじゃないだろうな。 恐る恐る、扉を開けると予感的中 「げ…。」 狐でナナシなカカシが立っていたのだった。 「開口一番が”ゲッ”て、それってのはどうかと思うんだけどね。」 「なんでアンタがってかつい30分前にサヨウナラしたとこじゃねーの!」 「三代目から色々預かって来たんだけどね、俺。」 「ささ、お入り下さいませ。」 「現金なガキだねやっぱり。」 だってアンタ、現金持って来たんでしょ?そら現金にもなるわ!っちゅーの!! その手にある荷物をこの手にするまでは、コメツキバッタになれるわアタシ。 と、いう訳で渋々ながらもカカシを招き入れた。 「あ、お茶ないから水でいい?水道水100%で生温いけど。」 「遠慮していい?」 「遠慮しなくていいけど?」 「遠慮させてもらうわ。」 「そう、残念ですわ。」 コップ洗う手間が省けたラッキー。 「で、三代目からの貢物は?」 急いては事を仕損じる、と言うが。 ぶっちゃけこの状況じゃそんな悠長な事は言ってられん訳なのだ。 掃除するには道具が、洗濯するには洗剤が、飯を作るには材料が必要で、 そのどれを入手するにも銭がいるんだよ!銭が。 だからとっとと出してもらってさっさとお引取り願いたい、が本音だったりする。 が、カカシはそれを知ってか知らずか?いやコイツ絶対判っててやってる筈だ。 「ま、そう慌てなくてもいいデショ?」 手荷物はガッチリ掴んだままで、室内をウロツキ始めた。 「ちょ、勝手に物触んなよ?アタシじゃ判断付かないんだから!」 「へぇ…こんな暮らししてんだ、あの子供。」 「ナナシ!聞いてんのか?」 「は?ナナシって何よそれ。」 「狐野郎でも名無しでも構わんが。何か字面的にナナシのが良くね?と思って?」 「お前ねぇ…」 「アンタにお前呼ばわりされる程、アタシとアンタの関係は親密じゃねーっての!」 「人をアンタ呼ばわりしてる時点で同じデショ!」 「アタシはいいんだよ、アタシだから。」 「ったくね…、ま、口の減らないガキに言ってもムダか…」 呼び名だとかそんなもん、どうでもいいから早くその手荷物をこっちに寄越しやがれっての! 「オカネクダサイ〜早く〜…。」 「信じられない変わり身の早さだね全く…。」 ワザと手荷物をチラ付かせてウロウロするカカシにムカついて、ちょっとだけ下手に出てやったのに。 「アンタ暇なの?口の減らないガキ相手にそんな事してる暇あんの?へぇ〜…」 嫌味の一つでも言ってやらんと気が済まなくなってきた。 腕を組み、少し斜に構えて狐面睨んでやれば 「態度が可愛くないから渡せないかも?」 お前の態度が気に入らないからこうなったんだろうがっ!! 「アタシに可愛さを求めてどうしたい!?アタシは可愛さより目先の金なの!」 「黙ってりゃ少しは見られそうなもんなのにね、残念だ。」 「は?黙って…黙ってりゃ腹減らないってか?そうかそうか。なら黙ってるから…ちょーだい?」 ダメだ、カカシが何を求めてんのかサッパリ判らん。 「ナーナーシーさーん、お金…ちょーだい?」 「………だから俺はナナシじゃないって言ってるデショ?」 「イチイチ文句の多い野郎だな。名前名乗ってないヤツをどう呼べっちゅーねん!あ?」 おまけに、だ。 今ここで呼び名を論議してどーしたいんだ?いっそカカシって呼べばいいのか? っていやいやそれは流石にマズイ。 聞いてない名前知ってる事がバレたら何されるか。 「あれなの?可愛くすればくれるの?ねぇそれって何萌えなの?ロリなの?病気なの?」 「は?萌えって???ロリって何…病気って…」 「アタシ昨日から御飯食べてないの、ひもじいの!掃除したいの!お風呂入りたいの!」 「だから?」 「とっとと金出せや…」 「全くね、まともな会話も出来ないなんて可哀想なガキだ。」 誰 の せ い だ ゴ ル ァ ! 「アタシが一体何をした…。」 そう呟くアタシは現在脱力中。 あれから小一時間程、不毛な言い合い(もしくは罵りあい)が続き、アタシはやっとの思いで手に入れた。 そう、念願の手荷物を手に入れた!んだけど。 ぶっちゃけもう疲れた、疲れ果てた。挙句 『また来るから〜』 『二度と来んじゃねぇ!』 去り際、カカシが置いて行った台詞に余計に疲れた。 こんなに疲れたのは何時ぶりだ?って思ってしまう位、本気で疲れた。 「でも…ともかく…」 腹 が 減 っ て は 戦 は で き ま せ ん の ! 貰った当面の生活費、物価が判んないから単純計算で日割りして、3日分?位のお金を握り締めて やっと買い物に行く事が出来たアタシ。 帰って来た頃には脱力・疲労を通り越し、掃除どころか飯喰う気力すら沸かず。 折角夜は美味しいご飯食べさせてやろうと思ったのに。思ったのにぃぃぃっ! 「ねーちゃん!?だ、大丈夫なのかっ!?」 アカデミーから帰って来たナルトに心配させるハメになるとは。 アタシも随分ダメな大人になったもんだ、って全部あの野郎のせいじゃねーかよっ! 今度、誰が玄関の扉ノックしても開けるもんか! そう、固く誓ったアタシですが。 思わぬ場所、思わぬ形であの野郎と逢う事になろうとは、思ってもみなかった。 -------------------- 2008.08.21 ← □ →