本.07


常連となった気さくなあんちゃん。
この里の上忍らしいアスマさんが連れてきた同僚?っつか知り合いさんは、
アスマさんの後方で、キョロキョロしながら店の様子を伺ってる。

(さては、過去のまんぷく食堂を知る奴か。)

アタシは過去は振り返らない、振り返っても金には成らぬと知っている。
だから今後は是非とも贔屓にしてもらって金を落として貰わねば!
と、思いっきりイイなんとかじゃねーけどともかく。
最初が肝心!と笑顔を振り撒こうとしたんだが。

(あっ…危ねぇとこだった…)

危うく、被った巨大猫を自ら脱ぎ捨てるとこだった。

『ナナシっ!?』

そう叫びそうになったのを寸で止めて叫ばなかったアタシ、よくやった!いやマジで。
九尾並の巨大猫は、自慢じゃねぇが相当面の皮が厚く出来た自慢の一品だったんだが、
それごとぶっちゃけるとこだった!って位驚いた。

だって、はたけカカシさん=狐野郎でナナシでクソ野郎なんだもん。

ヒーヒーフーっと呼吸を整え、気合入れなおして猫被りなおして笑顔で接客をするアタシは、
それでもどっかでボロ出さないかヒヤヒヤしてた。
だってばよ?(違うか)あの野郎、探るような視○するみたいな目でアタシを見るんだもんっ!
や、可愛い子ぶってる訳じゃねーけど。
おまけに、アタシの知ってる陰険野郎とは大違いで、何か凄いイイ人風に見えるっていうか、
見せてるっていうか、幻覚か?って位、ナナシとは大違いで。

「俺もまた来てもいい?」
「閉店狙って…ですか?」
「うんそう、だって美味しいからね、これ」

あれか?上忍ってのはもしかしてランチメニュー料金がぼったくり価格だって気付いてんだろうか。
だから揃いも揃って閉店狙ってまかない狙って来てんのか!?
ちきしょう冗談じゃねぇぞ!たった数両ぼっただけでそれか?
儲けてんなら遠慮せず落としてけよ!金は天下の周り物だってーの!

「せめて開店時間に来てから言って下さいよ!もう、アスマさんと同じなんだからっ!」

ムカついたもんだから、プンスカ!と、ちょっと拗ねて見せてみた。幻覚のお返しに。
すると、これまたカカシの野郎、アタシを探るように見てる。

(やっべー、猫見えてる?ねぇ見えてんの?仲間(狐と猫?)だから見えるの!?)

アタシはただ、自分の隠してる本心を悟られまいと、その後は無駄に愛想を振り撒く始末。
後はもう、出来れば来ないで下さいお願いします。そう心の中で繰り返し続けたんだけど。

「久しぶり?元気にしてかクソガキ。」
「クソガキッテダレカナー?」

何!また来るってこの事だったのかっ!?
狐面姿のカカシの野郎が、深夜突然現れたのだった。




「で?何用よ。」
「相変らず口の減らないガキだね…」
「だから、その口の減らないガキに何用だっつーの!」

やっぱり昼間のアレは幻だったんだ。幻覚だったんだ!
そう言い切れる程、カカシ野郎はやっぱりクソ野郎で。

「お前、仕事始めたらしいね。」
「だったら何?ま、まさかアンタ…」

嫌がらせに営業妨害でもしようってんじゃないだろうな!?
つかアタシ、アンタに何したよ!そこまで嫌がらせされる覚えねぇよ!

「ガキのクセに評判上々らしいね。全く皆騙されて…」
「大きなお世話じゃ!つか騙されて、とか失礼だろーがっ!」
「常連、増えてるらしいねぇ。騙されてるからデショ?」
「騙してなんかねぇよ!」

やっぱバレてんのか?ぼったくり価格が。
バレてんなら、今すぐ口を塞ぐべきだろう、コイツのこの軽そうな口を。
出来る出来ないかはまぁ後々考えるとして。

「随分可愛い子が旨い料理作って給仕してるって聞いて、笑ったよ俺。」
「え?何それ?初耳っすよ?」

うん、バレてなかった。よかった^^^^^^^^^^

「あのさ、どうせ喰うなら旨い飯のが良くない?」
「そうだね、旨いに越した事はないけど…」
「それを、可愛い子が出してくれるなら尚更じゃない?」
「ま、確かにそうかもねぇ…」
「アタシはその条件を満たす事が出来る。天がアタシに与えてくれた武器よ!」
「は?何だよソレ???」

だから、上忍なら1聞いて10悟れっつの!

「アタシはお客様に、料金には含まれてない愛想をタダであげてる訳、判る?」
「だから?」
「感謝されこそ文句言われる筋合いはねぇよ。タダなんだしな!!」
「呆れるがめつさだわそれ…。」
「夢なんて、所詮は儚いもんさ。ロマンだろ?」
「お前一体幾つよ…何かオッサン臭いよ。」
「アンタ、女に歳尋ねる時は寿命の数年は手土産にしろ!って知ってる?」
「知る訳ないデショ!」

だろうな、今思いついた名台詞だし。

「つーかさ?ナナシよー。」
「だから、俺はナナシじゃないって言ってるだろ!」
「じゃどうしろってのさ!大体アタシだってお前じゃねぇよ!」
「俺だってナナシでもアンタでもないし。」
「だーかーらーーーーっ!アタシ、アンタにそんな喧嘩売られるような事した覚えねぇし。」
「喧嘩なんか売ってないデショ!」
「今この言い合いが喧嘩じゃないっつんなら何っつーんだ?あ?言ってみろ!」
「お前が一人興奮して喚いてるだけ?」
「だーーーーーーーーっ!」

アタシはこのカカシとのやりとりで、何度こうして頭掻き毟った事か。
ハゲたら訴えてやっから覚えとけよ!
アタシを、してやったり顔(してる気がする)で見下ろすカカシ。
あれか?いっそお前がカカシだ!って知ってんだ!って言ったろか、マジで。

「お前さ、タダだからって愛想振り撒いてると誤解された挙句に厄介事になるよ?」
「誤解?ハッ!上等じゃねーか!誤解だろうが何だろうが、アタシの野望の邪魔はさせん!」
「何その野望ってのは…。」
「言葉のアヤだ、気にすんな。」

つい興奮しすぎて適当な事言ってしまった。
まぁ、野望っつーか、あの食堂がもっと流行ればいいなぁ?みたいな感じはあるが。
大体、アタシが愛想振り撒いた所で誤解が発生する意味が判らん。
そりゃ?アタシだって今の顔が可愛いかも?って自覚は相当あるけど。
そりゃ?美がつく少女だって自覚あるから武器にしてんだけど。
けど!それでも特別って訳でもないし、精々十人並みな気がすんだけどー。

「知ってる?」
「いきなり唐突だな、何?」
「魚屋のおっさんの姪ってのが最近看板娘になっててさ?」
「ああ、見たことあるよ、結構可愛い子だったけど。それで?」
「愛想良し、顔も良し、って客が増えてる訳よ。」
「だから?」
「アタシと何が違う訳?同じじゃん。なら誤解もへったくれもねぇだろ?」
「お前、鏡見たことある?」
「………バカにしてんの?」

鏡見て出直せ!って言ってんのか?
そりゃ魚屋のヒメコちゃん(名前知らないから仮称)はアタシが見ても可愛い子だったし。
何よりアタシより小振りで若かった。多分16〜7の美味しそうな年頃。
それと比べりゃ多少劣るかもしれんが、アタシだって精一杯可愛くやってんだ。
それを!その努力を鏡見て出直せって酷くねーか?

「やっぱ、アンタ嫌いだわ。」
「今更何言ってる訳?」
「女に鏡見て出直せだなんて…そんな事言う奴ぁ許さん!テメェの命で償え!!」
「え?何それ?俺そんな事言ってな…」
「じゃかーしい!命惜しけりゃ二度と来んな!」
「オイオイ何一人で誤解して怒っ…」
「大っ嫌いっ!ナナシのバカっ!」
「!!!!!」

どうも若い娘ってのは涙腺が弱い臭い。
アタシがこの年頃だった時、こんな涙脆かったっけ?と思う程に、勝手に涙が溢れてきた。
最後の台詞だけ聞いたら完全に痴話喧嘩だな…って思う辺りはまぁ冷静って事で片付けて、だ。
さすがにカカシも焦ったのか、途端にオロオロっつーかあたふたっつーか、慌てとる。
上忍があからさまに態度に出すとはまだまだだな、いやむしろ

ざ ま ぁ み ろ だ わ っ!!!!!

と、冷静な部分で舌出してた訳ですが。アタシはこの数日後、カカシの言った言葉を
身に染みて体感する事となる。





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2008.08.28