本.10


本日も晴天なり。

朝からこれでもか!?って位に元気ハツラツなナルトを見送り、アタシは仕事へ向かう。
店を開け、掃除をしながら仕入れる品数の概算をしつつ、
必要な物を数と共に紙に書き出している頃、じーさんばーさんが出勤してきた。

「おはようちゃん、今日も天気がいいわねぇ」
「そうっすね、うっとおしい位の暑さになるかもしれませんねぇ。」

何ていい加減な返事なんだろう、とは判っているが。
ちょっとでも暑いの嫌いなんだもん。

「今日は何にするのかしら?」
「そうっすね…、じーさん!今日は何がいい?」
「儂か?儂はそうじゃな…アッサリしてこってりコクのあるモンが喰いたいのぉ」

どっちだよ!
相変らずの味覚のじーさんに厨房の掃除を頼み、
アタシは早速買い出しに向かうべく準備を始めた。
必須アイテムは当然アレだ。
値切り倒す為には欠かせない衣装、それが必須だったりする。
”お帰りなさいませご主人様☆”なぁんて台詞が似合うその服は、
アタシが今を生きる為に必要な戦闘服かもしれん。

その、やたらフリルの多い戦闘服に身を包み、
これまたヒラヒラの多いエプロンを装備し、全っ然衣装に似合わない唐草模様の
風呂敷を手にアタシは臨戦態勢に突入する。
多少強引な値切りも、この装備と0円スマイルの前では霞む、
むしろうっかりオマケまで付けてくれる事もある。
やや、丈が短いのが難だが、この際仕方ない。
スカート丈に値切り額が比例するのだから、ガッチリ目は瞑る。

準備OK、今日の獲物を捕えるべく、狩人気分でアタシは店を出た。





本日のランチメニューは鯖の味噌煮をメインに麦御飯と野菜たっぷりの味噌汁と、豆の煮物にお漬物。
ちなみに、たっぷりの野菜は前日残った野菜の切りくずだし、麦御飯は身体にイイ!以前に安上がりだ。
煮物にした豆は当然、じーさんばーさんが自宅で作る物だからタダ、当然漬物にした野菜も一部は自作物。
つまり、アタシの本日の獲物は鯖なのだ。鯵じゃない鯖、青い魚だっ!

「鯖〜〜〜〜っ!」

そして、アタシの今日の敵は魚屋のオヤジ。
んがっ!それ以上に魚屋には手強い敵がいる。そう、アタシのこの装備も0円スマイルも無効化する奴が。
そうこうしている間に、視界に魚屋が見え隠れし始める。

「ちっ…。」

仮称:ヒメコちゃん、は今日も気合の入った化粧と魚屋には不似合いな衣装で笑顔を振り撒いていた。
つか、あの化粧はいかんだろ!香水もプンプン臭うし、あの子スッピンの方が絶対可愛い気がすんだけど。
しかも何故か、アタシをそら恐ろしい目付きで睨むんだよな、ヒメコちゃん。

「いらっしゃいま………。」

ヲイ、せ!は何処だ?何だその間は!!!
アタシを一瞥し、明後日の方向を見て再び愛想を振り撒き始めたヒメコちゃん。
もうこの際、ヒメコ呼ばわりで十分だなコイツは、とアタシが鯖に目を光らせていた時だった。

「いらっしゃいませぇ〜〜」

ついさっきまでの愛想は何処へ?な、
さっきまでの愛想掛ける事数倍の愛想を振り撒くヒメコを不審に思い、
アタシはヒメコの熱い視線の先を、- - - - - - → みたいな感じで追って、そしてチラ見してみた。

「でた……。」

そしてうっかり呟いた、ポロリと。
ただ、俯いてたし?小さかったから他人には聞かれてない筈だ。
危ねぇ危ねぇ、その一言でアタシのイメージが崩れたら値切りにくくなっから大事になるとこだった。

「ゴメンね、俺客じゃないんだよねぇ…」
「冷やかしかよ…。」
「そうなんですかぁ?是非今度はお客様で来て下さいネ☆カカシさん」

それ以前に、あれだ。
ヒメコはいつから魚屋じゃなくてキャバクラの呼び込みになったんだ?
と、思ったら危うく吹くとこだった。超アブネェ。

「何か言った?ちゃん??」
「なぁんにも言ってないですぅ!」
「そっか。ちょっと付き合ってくれないかな?」
「は?いや、アタ…いや私今買い物途中で…」
「直ぐ終わるから!ね?」
「え?カカシさん!?」

ヒメコはやたら慌ててるし、アタシは羽交い絞めされて連行されるし。
ね?じゃねぇぇぇぇぇっ!
鯖がっ!鯖がアタシを呼んでるんだよぉぉぉぉぉっ!

ちきしょう!こうなったら後で絶対仕返ししてやっからな!
アタシは引きずられるまま、カカシに何処かへと連れて行かれる事となった。





「あの〜…カカシさん?」

オイ、人を無理矢理連れて来ておいて、無言とは何事だ!
い や む し ろ こ こ は ど こ だ ?
アタシ、こんな場所に捨ててかれたら帰れる自信ねぇし!

「あの…私仕込みがあって…。」
「あのさ、覚えてる?」

主語はどこだ?先ずそれから先に言わねば理解なんぞ出来るか!
主語以前に目的も不明なカカシの行動に、アタシは首を捻るしかなく。

「覚え…てるって何をですか?」
「はぁ〜っ…。やっぱり覚えてないんだね、ちゃんは。」

盛大な溜息が妙に癪に障るなぁ^^^^^^^^
こんな不毛な会話してる間に鯖が売り切れたらどうしてくれようか。
アタシはポケットから携帯を取り出し、時間を確認した。

(10時過ぎちまったじゃねぇかっ!)

鯖の購入予定はえーっと、一匹から6切れで6人前だから、6×10で60切れ、つまり!
アタシは仕入れた鯖を10匹、三枚に下す作業をせねばならない。
そしてそれを、煮込んで麦飯を炊いて、やる事が多いってのに。

「カカシさん?あの、アタシほんとにそろそろ戻らないと間に合わなくなっちゃう…」

なっちゃう(グスン)って、言っててキモイ。自分でキモすぎて鳥肌になった。

「何でそんな恰好でウロついてる?この間の事もう忘れたの?」
「ウロついてませんよ?買い物してただけで…」
「だから、それがウロついてるっていうの。判る?」

判りません!って宣言したら、説教じみた話しが長引きそうでマズイ事になりそうだ。
どうする?どう出る?どう答える?
アタシは仕方なく、少し困った顔にして、見つからないよう後ろ手に回した手で太股辺りを自分で抓り、

(痛ってぇぇぇぇぇぇっ!)

浮かんだ涙で潤んだ瞳でカカシを見上げて首を捻ってみた。
アタシの必殺技、パート1である。

「だーかーらっ!そんな顔するから…」
「だって…カカシさんが何言いたいのか私…判らない…し…。」

頼むからそろそろ話し終わってくんねーかな。
ぶっちゃけ、アタシの必殺技パート1は、1回が限界なんだよな、都合(痛さ)により。
そして、アタシの必殺技パート2をお見舞いしてやりたいとこだが。
まだ開発段階(考えてない)だから披露は差し控えたい。

「そういう恰好してウロウロして、この間みたいに追い掛け回された挙句…」

あ!そうか。あの、ストーカーっつーか宇宙人との遭遇事件か。
悪ぃすっかり忘れてた。

「あんな人、そうそう居ませんよ?」
「そう思ってるのはちゃんだけデショ?」
「つまり、だから?」
「買い物する時にそういう格好も、愛想振りまくのも良くないって事。もちろんお店でも」

そういう台詞はヒメコに言ってやった方がよくね?
とはおくびにも出さず、

「気をつけます…。」
「そうしてもらえると助かるよ。」

何故だ!?と聞きたい衝動に駆られたが。
今は先に解放してもらわねば、昼に間に合わん!
よし、開発段階だが仕方ない。
アタシの必殺技パート2、発動っ!

「それよりカカシさん!私、お願いが…」

ポイントその1。
先ずは相手の二の腕辺り?の服を掴む。(もしくは上着の裾でもよろし。袖口でもOK)

「なっ…に?」
「あの、その…」

ポイントその2。
その、掴んだ服をクイッっと引っ張って自分の方へと視線を移させた上で、思い切り見上げる。
(注意;決してガン飛ばしてはなりません、メンチ切ってもあきません。)

「鯖を…。」
「え?ゴメン聞こえなかった。何?」

ポイントその3。
最初の1回は聞き取りにくく小声で、必ず相手に聞き返させましょう。

「私の代わりに魚屋さんで鯖買ってもらえませんか?あ、当然値切りは当たり前ですよ!」
「………わ、判った。」

最後、ポイントその4。
相手の反論、考える暇を与えないよう、
畳み掛けるよう一気に捲くし立て、その勢いで訳も判らず頷かせる。

「ありがとうカカシさんっ!」
「 ─── っ!」

オプション。
手を握って、軽く喜んでみせる。



その後、アタシは無事に街へ戻る事が出来た。
そして、アタシの必殺技パート2により、普段の数倍の格安価格で鯖を仕入れる事にも成功する。

(今度から魚屋の買出しはカカシに頼むか………。)





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2008.09.05