本.19


「らっしゃい!」

入れ替わり立ち代わり入ってくる客に、今や
なけなしと化した愛想を巻いては注文を聞き、ランチを出すお昼時。
その、クソ忙しい時間帯には珍しい客が現れた。

「らっしゃ…って珍しい…」

今ここに居る客の中で、おそらく上位に食い込むだろう金回りの良さそうな(予想だが)、
なのにいつもまかないを狙って現れる上忍二人が現れた。

槍でも降るんじゃね?

と、思ってしまうアタシは決して悪くない。
だってさ?この二人が営業時間に来るなんてめったにない。
いやむしろ皆無に等しい。
まぁ上忍ってのがどんな仕事してるかは知らんが、忙しいだろうし?
バタバタ騒がしい忙しない場所で飯喰うよりは静かで人もいない方が落ち着くだろうから
アタシはまかない時間に来る上忍二人をそうそう邪険に扱う事はなかったが。

それにしても、だ。
雁首そろえて表情はやや暗め、機嫌も悪い方に斜め上風な忍が二人揃うと…あれだ。
周りの客が引いとるがな!

はっ!?まさかこいつらいつぞやの仕返しに営業妨害のつもry

いやいや、いくらなんでもそんな大人気ないマネ、アタシじゃあるまいし。
普通はそんなマネしねぇよな?アタシじゃないんだし。

「珍しいね、アスマさんもカカシさんもこの時間に来るなんて。」
「ああ…いや…その…出直す事にするか。な?カカシ」
「………ああ。ちょっと…まぁ…うん。そうしよう。」
「は?」

奥歯に物が挟まったっつーか、煮え切らない二人の忍は、
言葉通り本当に店から出て行ってしまった。

まるで新手の嫌がらせだなヲィ!

一瞬にして騒がしい店内を静かにしてくれた事に関しては一応感謝しよう。
が!ものっそ後が気になる立ち去り方じゃねぇかっ!
あの二人のああいう態度の後は必ずロクな事が起きないのは
身をもって経験しているから余計落ち着かねぇよ!

「ちゃんご馳走様〜いくら?」
「あ゛?」
「あのっ…御代はおいくらで…?」
「あ…悪ぃごめんなさいね、っと…いくらだっけ?」
「…………。」
「…………。」

お陰で、本日のランチの値段まで頭からぶっ飛ん字まったじゃねぇかぁぁぁぁぁっ!

結局、それ以降アタシの調子はガタガタに崩れたまま、
接客どころか態度は最悪でも味は満足できるだろ文句ねぇだろ!な状態で、
営業時間終了間際までガタガタっぷりを披露する事となった訳なんっすよ。





既に営業時間は過ぎ、さぁ今日も一日頑張った自分へのご褒美に美味しいまかない食べるぞっ!
と、用意に突入した時。

カランカラン

店の玄関扉に付けた、扉を開けたら鳴る大きめの鈴が来店を知らせた。
つまりそれは、あの二人組みの登場の合図で、一瞬頭にあの曲が流れた。

(………って忍たまのOPじゃん…)

がっかりしたりめそめそするのはどうしてかなー?そんな曲。
ま、忍繋がりだから問題ねぇか、とアタシはそのまま口ずさみつつ、
特に愛想を巻く訳でもなく、無言でカウンター席に着いた二人の上忍へ出すまかないから作り始めた。

本日のアタシへのご褒美は、ポテトグラタンにポテトサラダ、フライドポテトだったりする。
随分とまぁ芋ばっかだな!なメニューではあるが。
だって好きなんだからしょうがないっしょ?
妙にコッテリしたものが喰いたい気分だったから、いいじゃん高カロリーは総じて旨いんだよ
しょうがねぇだろ!と、一人ノリツッコミしつつも実は胃もたれしそうだなーとは思ってる。

用意は出来てるから温めて揚げるだけなんだが。

「おまっとさん。」
「「………これ何(だ)?」」
「ポテトグラタ…んって知らないか。」
「匂いは旨そうだが…」
「味の想像は付かないっていうか…」
「心配すんな、死にゃしねぇから。」
((そういう問題かっ!?))

つーか、ポテチはあるのにグラタンねーの?
まぁチーズは自力で作成だし?バターはあったし…ま、その辺りはアドリブで頼む。

おそるおそる口に運ぶ二人の大人の姿に笑いそうになったが、
アタシも腹は減ってるんだそうだよ食べようよ早く食べないと晩御飯が食べられなくなっちゃう!
と、芋を揚げつつ自分の分を温めて、揚げたてのフライドポテトにポテトサラダを添えて(逆だろ)
二人のトレイの端に乗せ、アタシの分も用意できたからカウンターへ回って座って黙々モグモグ食べ始めた。

その、アタシが久しぶりの高カロリー食品に舌鼓を打っている最中

「なぁ嬢ちゃん…」
「はひ?(スプーン咥えた瞬間に話しかけんなよKYだな全く…)」
「いや、そのな…」
「どうかひまひはは?(どうかしましたか?とスプーン咥えて言ってるのって行儀悪ぃなアタシっ!」

モグモグモグモグゴクリっ

「アスマさん??」
「あ、その…何だ…なぁカカシ。」
「ゲフッ…ちょっと何でオレに振る訳!?」
「ふぅ…旨かったぜ中々。ここに代金置いとくから後はカカシ、頑張れよ?」
「だからオレにっ…アスマっ!!!!!」

うーん…これはもしや痴話喧嘩ってヤツか?
だとしたら驚きの…じゃないアタシ、めっさ極秘な事実を知ってしまったのか!?
な、訳ねぇわな。
二人とも街じゃ相当浮名を流してるっつーかオネーチャン達に相当人気ある臭い上に
据え膳は遠慮なく喰ってるっぽいし。

「…………あのさちゃん。」
「はひ?(だから人がスプーン…以下略)」
「あ、ゴメン…先に食べていいよ。」
「はひ…(いいよ、って何だ?アタシがアタシの作った飯喰うのに…ブツブツ)」
「食べ終わって片付けて店も閉めたらちょっとだけ付き合ってくれないかな。」
「………いいけど…どこに?晩御飯の用意もあるし…」
「昼ご飯食べてる最中にもう晩御飯の事考えてんだ…ははは…。」

遠まわしに“食い意地が張ってるね^^^^^^^^^^”って言われた気がすんだがどうだろうか。

ま、晩飯の用意する時間までに帰れるなら別に付き合ってやってもいいし、
またランチに魚使う時は買い物代行してもらいたいからいいか。

黙々とまかないを食すアタシを、何とも微妙な表情でカカシが見てた事に、
サラダの絶妙な味加減に満足し過ぎていたアタシは気付かなかった。





確か、アタシの記憶が間違ってなかったら、カカシは“ちょっと”だけ付き合って、って言わなかったか?
あれか?その“ちょっと”ってのがどの程度かは人それぞれ全然違うのか?
そりゃ人がいりゃ十人十色、色んな捕らえ方はあるけど、この“ちょっと”ってのは全然ちょっとじゃねぇだろ!
これが“ちょっと”っつーならアタシはカカシの神経を疑うわ、マジで。
と、内心でひとりごちるアタシだが、実際はそんな愚痴を零す余裕もない程ヘバっている。
途中、喰ったグラタンをリバースしなかったのが奇跡に思える程、
そこに辿り着くまでの道中はアタシにとって、食後の軽い運動を超えた重労働だった。

なのそれなのにっ!
隣にいるカカシは涼しい顔してそこから見える景色に一人満足気に笑顔なんか浮かべてやがる。
それって結構カチンと来るんだけど

「あそこに見える並んだ石碑…全部お墓なんだよ。」

カカシの指差す方向に見えたそれに目を向け、それを見つめてるカカシの表情がいつになく
真剣で、アタシはただ黙ってそっちを見るしか他はなく

「話ってのはさ…」

静かに口を開いたカカシから語られる話の内容に、アタシは少しだけ昔を思い出す事になる。





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2008.10.09