本.25


思い出そうとして思い出せない。
なら、さしも重大な事ではないのだろう、とそんな事を考えて、
ざわつく街に気を取られてアタシはすっかり忘れてた。

「ちょっと酷くない?その態度。」
「やかましい!酷いのは貴様の無節操な下半身だろうがっ!」
「言いがかりにも程が…」

突如生えたカカシの野郎にイラっときて、変わらない普段の態度にムカっときて、
殴ってみてもスッキリしねぇし無視して家まで走って帰ってきたというのに。

「だから、何でそんなに怒ってんの?オレ何かした?」
「…………不法侵入たぁイイ度胸してんじゃねぇか、あ?」

慌てて入った家の中、扉にガッチリ鍵したってーのに、
何時の間に侵入してきやがったのか、ちゃっかりカカシはアタシの背後にいて。

「オレ、ちゃんにそんな態度取られる理由が判らないんだよね…。」
「そりゃそーだろうよ、当事者が居ない間を狙っての確信犯に狙われたんだからなっ!」
「だからそれどういう意味だ?って聞いてるんデショ?」
「噂→生じた誤解→謂れの無い因縁吹っかけられ→正当防衛の名の下での制裁→終結。」
「全っ然意味が判らないんだけど…。」

この男がナルト達を連れて波の国へ出かけてる間。
アタシはこの上もなく理不尽な言いがかりによってドエライ目にあったのだ。
今思い出してもイラっを通り越して扉を蹴破りたい衝動に駆られる。

「ま、まぁ少し落ち着いて。ほ、ほら!お茶でも淹れるから…」
「茶だぁ?人んち上がりこんで勝手に茶淹れて何しようって?」
「ホント全然判らないんだよ。だから…さ?」
「途中、耐え切れなくて殴りかかっても逃げない?」
「………………多分。」
「なら、話してやってもいいが…ああいいけどテメェ後悔すんなよ………。」
「ハ、ハイ…。」

アタシの身に降りかかった災いというか、
アタシが一番嫌いなパターンっつーか。
ともかく。
そういう事が起きたのだ。
それは原因となったカカシの野郎が帰ってくる数日前の事。











今日も晴天ご飯が旨い〜♪
と、鼻歌交じりにアタシが買出しに精を出していた時だった。
どこからともなくアタシの鼻腔をくすぐる嫌な匂いにふと顔を上げれば

「……………………。」

そりゃもう何といいいましょうか、某悩殺姉妹も真っ青なオネーチャン(おねーさんではない)方が
勢ぞろいされておりました。
ちなみに、アタシの鼻腔をくすぐった嫌な匂いってのはこのオネーチャン達から漂う香水の香り。

「………………何か?」
「アンタが?」
「た、多分。」

そんな、オネーチャン達のアタシを見下すような視線に、ピンときた。
これはまさか、よくあるパターンっつーかお約束のアレじゃないだろうか?と。
アタシがそれに気付いたのは理由がある。
あの、アスマさん達との飲み会の席で、
アタシは自分が知らない所で流れてる噂ってのを教えてもらった。

”あのはたけカカシに本命が出来た。相手は四代目がその身預かる他国の娘で”

あれは、教えてもらったっつーより面白がってたっつーか。
ともかく、アスマさんからそう聞かされて、アタシは眩暈を覚えた。
全くもって出何処も原因も意味も判らん訳判らんな、その噂に。

『女ってのは怖ぇから気をつけろよ?』

そして、そう忠告されていたからピンときた。
嗚呼このオネーチャン集団はカカシのアレなのか、と。

そしたら案の定

「アンタ、カカシさんに親切にされてるだけだって判ってる?勘違いしてんじゃないわよ!」

そうアタシを突き飛ばして言いがかりをつけて下さった。

親切にされてる?
おいおい勘違いも甚だしいんじゃねーのか?

ってー顔に出したら(口には出してないけど)オネーチャン達余計怒っちゃって。

「何よその顔…いい気になってんじゃないわよ!」

キィキィ喚くその紅い唇が妙に気味悪くて。
と、その辺りまではアタシも冷静に対応してた(つもり)だったんだが。
まぁそろいもそろって喚く喚く。
タダだからって言いたい放題言いまくるわ殴ろうとするわ、避けたらまた喚く…のエンドレスで。
あんまりに頭きたからつい

「噂じゃない場合は、どうしてくれるんですか?」
「なっ…」
「アタシ、確かにカカシさんと結婚を前提にお付き合いしてますが。」
「ふざけてんじゃな…」
「今、カカシさん任務で出かけてるんですが…戻ってきたら報告させてもらって構いませんよね?」
「言えるもんなら言ってみなさいよ!」
「ええ、言われなくても言わせて頂きますよ?見境なくした雌猫共に引っかかれた…ってね。」
「な、なんですって!?」
「ああすいません、雌猫に失礼ですね。」

と、冷ややかに笑いながら

「そうそう、年増の嫉妬程醜いものはありませんから程ほどにされた方がいいですよ。」
「このっ…」
「皺の辺り…化粧が剥げそうですねぇ…」

自分でも驚く程冷静に、アタシはオネーチャン方に冷たく言い放つ。

「カカシさんに言いつけてやるっ!アンタは猫被って…騙してるんだって…」
「どうぞご遠慮なく。そん時ぁ熨斗つけてあの野郎を差し上げますわ。」
「っこのっ!」

当然、アタシの態度にオネーチャンは手を上げた。
がっ!
OKOK、この時点で正当防衛は成り立つ。
一発は甘んじて受け入れて、アタシは反撃体制を整えてから、
一番前で喚き散らしてた、最初にアタシを突き飛ばし、アタシを殴ったネーチャンを

「んじゃ、正当防衛って事で恨まないでくださいね〜…っこのババァ!」

改めクソババァの髪、引き掴んでこっちに引き寄せてから
思いっきり腹の辺り蹴り上げて、蹲った所を後ろから蹴り倒してやった。
アタシは喧嘩に慣れてる訳じゃない。
多少人よりほんのちょっと暴れ方を知ってる程度だ。
一人やりゃあ後は相手にしなくていい。
既に他は完全に戦意喪失してるしー。
あとは勢いのみ。

「文句はアタシじゃなくてカカシ本人に伝えてくださいね。」

と、畳み掛け、最後にこう付け加えた。

「今度アタシに因縁つけるようなら…二度と見れない面にしてやるから覚えとけよ。」

当然、アタシの圧勝一人勝ちである。



がっ!



よくよく考えてみりゃ何でアタシがあんな目に逢わにゃならん!?
大体、何をどう勘違いすりゃそんな噂が立つんだ!!

勘違いも勘違い、大きな勘違いにも程がある。

アタシは無関係なのに、勝手に誤解された挙句にとばっちりじゃねぇ!?
と思ったらフツフツどころかもう頭掻き毟りたくなる位腹が立って。

その怒りに任せて店のドア一枚ブチ破っちまったしよ…。









「アンタのお陰でアタシ、迷惑被ったって訳よ。判る?」
「…………。」
「黙ってないで何とか言えっての!」
「…………。」
「おまけに勢いであんな嘘付いちまったしよ…まぁあれ以来因縁つけられる事なくなったけどさ…」
「…………。」

本人目の前にして全部ぶちまけたら、一応多少は怒りは収まったけど。
何か神妙な顔付きで考え込んで…ってまさか、まだ他にもあんじゃないだろうな!

「聞いてんの?聞いてないの?」
「あの…さ…。」
「言い訳も何もいらん!謝罪及び誤解を解く作業に取り掛かれっ!」
「そうじゃないんだ。」
「何…」
「その…言いにくいんだけど…。」
「何かあんの?」

ボソボソと呟き、アタシと目を合わさないようにしてる様子に嫌な予感がする。

「実は…その噂なんだけどさ…」
「何っ!何なの!早く言え…嫌な予感がしてたまんねぇ………。」
「”はたけカカシと本命の彼女が近々祝言を挙げる。既に子供がいる…”って噂に変わってるんだよね。」
「はあああああああああああああああああ?」
「実は戻ってきた日に…覚えの…って見覚えって事なんだけど…」
「お前って奴は…やっぱ下半身は別の人格の持ち主…」
「だから!それは全部ちゃんと整理してきたんだって!」
「整理なんかいらん!誤解を解くだけでいい!もうアタシにこれ以上…」
「”素敵な彼女ね。あの人となら幸せになれそうだから…もうカカシさんの事は忘れる事にします…”」
「聞こえなーーーーい!アタシには何にも聞こえないーーーーーーっ!」
「”カカシ先生、ついに身を固めるんですか!おめでとうございます!”」
「いやあぁぁぁっ!」
「アスマにも言われたよ。”お前、とうとうお嬢を嫁に…”」
「今すぐ全員息の根止めてこい!」
「んな無茶な…。」
「アタシもう外歩けない…もう生きていけない…。」
「そこまで全力に拒絶しなくても…。」
「もうお嫁にいけない〜〜〜〜〜〜っ!」
「だからオレが貰っ…」
「………………ナニイッチャッテクレチャッテンダ?」
「いや、その言葉のアヤっていうか?」
「ソモソモダレガゲンインカワカッテンノカ?」
「や、だからオレは…。」
「もうやだあぁぁぁぁぁぁ…」
「だから、そんなに全力で否定されたらオレだって傷付く訳よ。」
「……………は?何で?」
「何で…って…気付くだろ普通。」
「気付くって…何に?」
「オレは、その噂を本当にしても構わない…と、思わないでもないって事?」
「ワタシハニホンゴガワカリマセーン!」
「……………。」
「……………。」

嫌な予感ってのは的中するもんで。
微妙に流れる気まずい空気にアタシはどう対応していいのか判んなくて。

「何それどういう意味な訳!?」

腰に下げて歩いてるあのお面を着けて、黙秘を貫いてその場をしのぐ事にしたのだった…。





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2008.12.11