本.27


「来たか。」
「来た…って言っていいのか?って聞かれたらアタシは全力で否定するよジーサン。」

来た、っつーより連行された。って主張したかったがこの際それはどうでもいい。

「では行くか。」
「へ?あ?何処に?今来たばっかなのに何処に!?」

全力否定した”来た”を自ら主張させられて、その上いきなりまた何処へ連行しようってんだ!?

「どこ行くのー…ねぇおじいちゃーん…。」
「黙って付いて来れば判る。」

へぇへぇ判りましたよ付いてきゃいいんだろ付いてきゃ…と、アタシは三代目のジーサンに連れられ
やって来た先は街並みから少し離れた一軒のボロ屋で。

「うっわぁボロっ…」
「何じゃと!?」
「いや…中々個性的な作りで…。」

吹けば飛ぶんじゃね?試しに吹いてみる?と、ふ〜っと息を吐いてみた。

「痛ぇ!何すんだいきなりっ!」
「お前の考えている事などお見通しじゃこのバカモン!吹いた位で倒壊する訳なかろう!」

っつーかお見通し、じゃなくてジーサンもそう思ってんじゃないのか?

「で?これがどしたの?」
「ここはな、昔…」
「年寄りの昔話は長くなるからいらない!」
「お前という奴は…………。」

って、何でアタシがここに連行されてんのか?を聞くのを忘れてた。
いきなり拉致連行の連続とか、ここでの初日みたいじゃないか。

「2〜3日もあれば改修できるじゃろ。」
「で?」
「食堂をクビになったそうじゃな。」
「どんなガセネタだよヲィ。」
「冗談じゃ。」
「へ〜…ほ〜…。」
「立地条件は中々じゃろう、ここは。」
「つーか話が見えん。」

確かに、アカデミーの近くにあったまんぷく食堂よりは街寄りにあって、
人の流れは十分ここまで来るだろう。
が、それとこのボロ屋敷との関連性が全く見えない。

「話は聞いておらんのか?」
「何の話?」
「食堂の老夫婦が儂の所に相談に来たんじゃが…。」
「は?????」

じーちゃんばーちゃんが相談!?何ソレ!?

「ちなみに、この物件を探してきたのはカカシじゃ。」
「は?????」

カカシが物件探し!?何ソレ!?

「ものすごく空気読めなくてアレなんだが、全く話が見えない…。」
「つまりじゃな…。」

三代目の説明曰く。
立ち退き及び閉店を余儀なくされた直後(多分数日前)、アタシのこれからを心配した
じーちゃんばーちゃんが三代目のジーサンとこに相談に来たらしい。
身元引受人である三代目なら、どうにかしてくれるのではないか?と。
おまけに、アタシがあの仕事を相当気に入っているらしい、それを踏まえて
次の仕事を紹介してやってくれ、とそれはもう必死で頼んで行った、と。

「その直後じゃったか、カカシがここを探してきたんじゃ。」

この場所なら客の流れもイイ、
あの不味くて安いと評判の食堂を、旨くて安いという評判に変えた腕なら
ここでも直ぐにやっていくんじゃないか?
場所さえ提供してやれば、十分やっていけるだろう。と、
じーちゃんばーちゃん三代目の会話を聞いていたカカシが見つけてきた。

と、三代目は教えてくれた。

「ここを、お前を巻き込んだ事に対する儂からの謝罪として提供しようと思ってな。」
「もう生活費貰ってんじゃん…。」
「ここがあれば、その生活費は不要じゃろ?」
「そりゃそーだけど…。」
「自分でよこせと言った割りに生活費を切り詰めておるんじゃないか?」
「あって困るもんじゃねーし…。」
「第一受け取ったのは最初の1度じゃろうが!仕事が出来たから後はいらんと突き返したのはどこのどいつじゃ?」
「さぁ?」
「ともかくじゃ。ここは既に買い取ってある。名義もお前じゃ。」
「マジかよ…。」

棚ぼた?いやいやいやそんなオイシイ状況だけど、でもいくらなんでもボロだといえども
店一軒貰う訳にはいかねーだろ普通!!

「3日後には店も開けられるじゃろ…。」
「でもさジーサン、いくらなんでも…。」
「ナルトやサスケもじゃが、子供達の面倒を見てもらってる事も含め、の礼じゃ。」
「それは無関係だし!好きでやってる事だし…」
「カカシも随分面倒を掛けておるようじゃし…」
「それ込みなら納得かもしれなy…。」
「嫌いか?あやつが。」
「別に…嫌いじゃねーけど…。」
「カカシも含めてあやつらの事は今後とも迷惑を掛けるかもしれんしの…。」
「それ含めなくていいから!何でアイツを含めたがるんだ…。」
「まぁ、納得すればそれで良し、じゃ。必要な物は大方頼んであるから心配せずともよい。」
「あ、あ、あ、…」

ありがとう、ってマジで素直に受け取っていいもんじゃない、でもでも…って葛藤は
それはもうヒマラヤ山脈よりも高い場所を一気に駆け上がる程で?(意味判らん)
でも、ありがとうって素直に口に出せるキャラじゃないのは自分で十分理解してるし
そういうキャラじゃない自分を作り上げてしまった責任も含め、

「あ、あ、あ、愛人契約結んだみたいだよね?」
「よ、いくらなんでもその表現はどうにかならんのかっ!」
「デ、デスヨネー…。」

つい照れ隠しに発した台詞は非常に現状にピッタリしっくり当てはまり、
さすがにアタシも多少は反省した、多少だが。

「ったく、お前という奴は…まぁ良い。この里でこの店を営んでおれば安心して暮らしていけるじゃろ。」
「うん、ありがとう三代目…。」
「気にするでない、らしくないぞ?」
「うっ、うるせーっ!」

葛藤しつつ、それでも三代目の厚意を受け入れたアタシ。
簡単に割り切って受け入れられる程小さな厚意ではなかったけれど、この際それはそれである。
ぶっちゃけ、これなら多分、二度と今後の生活の不安を感じる心配はないだろう。
それにもしも?何か起こったとしても、アタシの物である、という確固たる存在があれば、
何も心配する必要もないだろう、と、アタシは素直に厚意に甘える事にした。

「ま、ジーサンも一回位は食べに来てよ?」
「判っておる。」
「約束するー?」
「ああ、約束じゃ。」

三代目のジーサンとの、
この世界でアタシの親代わりだと言ってくれたジーサンとの小さな約束。
その、小さな約束を交わした時、アタシはその約束は果たされる事だと信じて疑わなかった……。





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2008.12.24