本.29


修行に旅立ったナルトから便りが届いた。
それは、2週間後位に一度帰って来るという知らせで。

「再来週には一度帰って来るってさ、ナルト。」
「………そうか。」

その事を嬉々としてサスケに教えるも反応は薄い。
まぁ、反応の薄さは今に始まった事じゃねぇし毎度の事だ。と、
2週間程山に篭るらしいサスケの為に荷物をこさえてる訳なんだが。

ちなみに、自来也のおっちゃんの自来也のおっちゃんによるナルトの為の修行ってのは
数ヶ月単位で行われてる。
そしてカカシのカカシによるサスケの為の修行ってのもサイクルは似たり寄ったりで、
アタシからすりゃどっちも気まぐれっつーか全っ然計画性ねぇな…って感じだった。

ただ、その期間が被る事はあんましなくて、
どちらかが修行と称した旅に出てる時は、必ずどちらかが里に留まってて、
アタシがこの一年、一人で過ごすって事は一度も無かった。
それは多分、ナルトとサスケのアタシに対する愛情に違いない。
と、アタシは密かに思っているってーか信じてる。

「いいか?絶対に隙見せたりすんじゃねぇぞ?」
「判ってる…。」
「敵は獣…否、ケダモノだ!見境無くしたケダモノ相手に躊躇なんか必要ねぇからな?」
「…………。」
「アンタはただ、アンタの貞操を守る事だけを念頭にお…」
「だから修行に行くだけだって行ってるデショ!!!」
「アタシはアンタが心配で夜も眠れないわっ!」
「だ、大丈夫だ…。」
「ちゃん、頼むから毎度毎度訳判んない事口走らないでくれないかな…。」
「サスケえぇぇぇぇぇっ…。」

アタシの可愛い子が(何か違う)あんなケダモノと二週間も寝食共にするなんてハラワタ煮えくり返りそうだが、
これも試練。とアタシは滝のように流れる涙を拭きつつ、

「いざとなったら躊躇わずサクっと!」
「頼むから物騒な事言わないでくれ…。」
「判った。」
「サスケもそこで頷くんじゃないっ!!」

毎度恒例、騒がしい(にも程がある)見送りをし、本当に久しぶりの一人生活に突入したのだが。






人間ってのは不思議な生きモンで、一人になるとロクな事を考えないっつーか
うっかり間違った方に思いを馳せるっつーか、見当違いな事を考えっちまうのは
アタシの場合単なる暇つぶしだったんだけど。

そもそもそれが間違いの始まりだった。





サスケ達が出発してから、特に問題も無く数日が過ぎた。
朝起きて掃除して、店の開店準備して開店して、営業時間が終われば片付けて店じまいして
二階でダッラダラに過ごす生活は刺激とか刺激とか刺激とか全然なくて。
ダラダラ生活を数日過ごしただけでアタシはダラダラにも飽き、
路線変更を決め目下ぼんやり生活に突入していた。

ただ、ボケーっと窓の外を何を見る訳でもなく眺めてみたり、
シミのない天井のシミを探してみたり…と、無駄にも程がある時間を過ごしていた
その時、ふと目に留まったのは机の上に無造作に置かれた(置いてた)携帯電話。

メモ機能とカメラ機能位しか使わなくなった(使えなくなった)それを手に取り、
特に何か思った訳でもなく、本当に何気に履歴を見た。
そこに残る最後の発信履歴はこの里に放り出されたあの日、
事情も飲み込めてないまま八つ当たりしてやろうと愚弟へ掛けた電話。

「そういやアイツ、元気にやってんのかねぇ…。」

弟が居て自分が居て、数十年生きた場所が既にだってのに、
そこが自分の中で懐かしむべき場所になっている事に気付き苦笑が漏れる。

預けたヘムヘムも元気にやってんだろうか?
と、愛犬の事も思い浮かべつつそのまま履歴を一つ一つ確認する中で目に留まる履歴に、
アタシは思わず噴出してしまう。

履歴の日付はアタシがこの里へ飛ばされる更に1年前で、相手はアタシにとって
数少ない友人の一人であり、アタシと弟にとって妹とも呼べる幼馴染であり。

「アイツは…まぁ元気だろう。つーかアイツがこの事知ったら…」

少女という殻を脱ぎ捨て、大人になった幼馴染はアタシが驚く程に立派な腐女子とやらに成長していた。
人見知りする彼女は基本的には無口だったがアタシや弟の前では普通に話し、
口を開けば萌え談義を懇々と切々と延々と熱弁していた。

「そういや…。」

その、幼馴染の話す萌えの中に、アタシの今置かれる状況に近しい内容は1つもなかった。
が、それに対する持論の展開があった事を思い出す。

『だっておかしいと思わない?都合良過ぎんだもん!何でトリップ=特殊能力持ちになる訳!?』

何でも、異世界に飛ばされる者はほぼ100%に近い確立で何かしら特殊能力を身に付ける、ってのが
お約束だとか。
幼馴染はそのご都合主義が気に入らん!といつも息巻いていたが。

「確かに、そんな都合イイもんアタシにも備わってねぇわな…。」

一般的(なのか?)なのが身体能力の上昇、だとか何とか。
ともかく、その人間(飛ばされた?)がその飛ばされた先で死ぬ事のないよう、
生き抜く為に備わるのが都合良過ぎて全っ然萌えん…らしい。

「特殊能力ねぇ…確かにあって都合悪いもんじゃねぇよなぁ…。ま、別に必要ねぇけど。」

一応、今んトコ危険はねぇし普通に生活出来てる以上、アタシには無関係だな…と、
過去を懐かしむかの如く思い出し、笑ってそれで終わった。





終わった筈だった。





後三日でナルトもサスケも帰って来る、って深夜。
それこそ草木も眠る丑三つ時も過ぎてんだろ!な時間、
アタシは突然自分を襲う痛みに目が覚めた。
嫌な汗が噴出し、瞬間襲ってくる寒気と共に感じるのは自分じゃない誰かの気配と、厄介ごとが起きる予感。
目を凝らし、暗闇にその気配を探してもアタシに探せる筈もなく、
勘違いか、杞憂なのだ…と勝手に解釈し汗を拭こうと洗面台の前に立った時だった。
目の前の鏡に映る、アタシ以外の姿。

「…………………笑えねぇだろこれ。」

アタシは小さな呟きを残し、意識を闇に奪われたのだった…。



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2009.01.23