本.31 消えた、ではなく”何者かに連れ去られた”だろう彼女…ちゃんが行方不明になって一週間が過ぎ、 オレを含めナルトやサスケ、事情を知ったサクラやいの、シカマルにチョウジに…と 皆が任務の合間に彼女を探すもその行方は依然と知れず、手がかりの一つも掴めてはいなかった。 誰もがその身を案じ、一向に進展する気配も見せない状況に苛立ち、 結果仕事を拒否しちゃんを探す事を優先したナルトとサスケ。 オレはそれを少し羨ましく思った、自分には決して許されないその自由さも含めて。 だが、そのお陰でオレは余計な任務を増やされるという不条理極まりない状況にいた。 おまけに、こういう時に限ってオレに与えられる任務はくだらないものばかりで、 今も里に侵入したらしい不審者の捜索という そんなもん下忍どころか学園の生徒でも出来んだろ!な任務を任されている。 (オレは一体こんな場所で何やってんだ…。) 今直ぐにでも、ナルトやサスケのようにちゃんを探しに向かいたいというのに。 いや、元はといえばナルトやサスケが任務を放棄したからそのお鉢がオレに回って来てる訳で、 つまりは元凶はあの二人じゃないか!?は、ともかく。 今はそれよりも、オレはこのどうしようもない報告をした奴の存在そのものを処分したい衝動に駆られていた。 「あーっもうホントどうにかならないもんかこれ…。」 不審者の手がかり…ともいえる報告の内容。 それは、タダでさえ苛付いているオレの神経を逆撫でするには十二分だった。(存在を含め) ”夫を失った未亡人が傷心を癒す為に漫遊の旅に出た。そして里に偶然立ち寄った…かの如く容姿。” そう、のたまったのは他でもないマイト・ガイ。 ”憂う瞳に写るこの里の景色が未亡人の心を癒す事を願う” そして、最後にそう付け加えた後満足そうに笑うあの野郎の横っ面に衝動に任せて拳を叩き込んだ事に後悔はない。 と、いうよりも、それ以前に!だ。 不審者どころかガイの説明通りの全く無害の旅行者なんじゃないのか?と本気で考えてしまう。 実際、漸く発見に至った”不審者”は、確かにガイの報告通りの”不審者”ではなく、”ただの旅行者”に見える。 後方からの確認のみだが、公園のベンチに座り、何かを想っているのだろう時折溜息を付く仕草は 確かに未亡人に見えない事はない。 あの様子だと接触しても問題はないだろう。 不審であればそのまま連行、問題なければ放っておけばいい。 今は一刻も早く確かな状況を手早く入手し、任務を終わらせてちゃんの行方を追わなければ…と、 オレは後方から一転距離を取った前方へ移動し、ゆっくりその女へと歩み寄る事にした。 例えばその女が他国の忍だとして。 気配を殺し、自分に向かってくる相手に対してどのような行動に出るか? 答えは”自然を装いその場を立ち去る”もしくは”全く気付かないフリをする”のが常套手段だと言える。 ただ、後者に関しては全く…ではない。 遠くにいたとしても、明らかに己に向かってくる相手を一切見ない…という事は不可能に近い。 それは人間の本能であり、習性だからこそ”全く気付かない”方がおかしいという事になる。 そして、それを行った時点で何かしら目的があってこの里に居る事が明らかになる上に、 ”一般人”ではない証拠となる。 つまり、立ち去る事もなく、オレに気付いた時点で女は忍ではなく”一般人”と考えていいだろう。 女はオレの気配に気付いたのだろう顔を上げ、確実に自分に向かってくるオレに目を向ける。 「………何か?」 「……………。」 後方から様子を伺っていた時は気付かなかった女の表情。 それは、憂いを含む未亡人と表現したガイの言葉通りのものだった。 見知らぬ男に対し、あからさまな警戒の色を見せる事なく、 さりげなく微笑む事で憂いを隠す女。 無言のオレに怪訝な視線を向ける訳でもなく、驚きや焦りも一切ないその表情は 確かな時間を重ねた大人の女の見せる物。 遠目からそれが金色に見えたのは陽の光りの反射の所為で、 実はその髪がオレに近くオレよりも明るい灰色で。 その一点だけが引っ掛かった、そんな筈はない…と。 けれど、どこかで否定しながらも間違いないという確信がオレの中に芽生える。 オレを、不思議そうに見る女の表情もその瞳も、違うといえば違う物かもしれないが、 見れば見る程それが同じ物だとやはりオレの何かが確信する。 (………そうか、だから…か。) 「ちゃんデショ?」 首を振って見せる彼女は特に動揺する事もなくオレの言葉を否定して見せる。 が、間近で見て側に立って話しかけ、返ってくる言葉や態度、 その表情にオレは自分の確信が、間違いではないと絶対的な自信を持った。 「人違いじゃないですか?」 「大騒ぎしてるよ。ナルトやサスケだけじゃない、サクラやいの、シカマルや…」 「一体何の事ですか?私にはさっぱり…。」 「そりゃ…いきなりだったらオレだって焦って隠れるかもしれないけど…。」 「ごめんなさい、私本当に貴方の言ってる事の意味が理解出来ないの。」 街に人に紛れてしまえば気付かれないと考えたのだろう、それは正解かもしれないけれど。 「髪まで切る必要なかったんじゃない?」 「切ってませんよ?誰と勘違いされてるんです?」 彼女は言っていた。 自分は本当はこんな子供ではなかった、オレより年上だった…と。 多分、突然元の姿に戻った事に動揺した彼女は家を飛び出したのだろう それでも張り紙を残したのは戻ってくるナルトやサスケを心配させない為で。 「ちゃん言ってたデショ?アタシこんな顔じゃなかったー!って。」 「だから人違いじゃないですか?」 「皆が知るちゃんがさ?大人になったら…こうなると思うんだけど?」 今、目の前にいる”大人の女”の姿をしたちゃん。 それは確かにオレ達が知るちゃんでは無い。 けれど、オレの知るという少女が年を重ね、今、 目の前に居る年頃に成長したと想定すれば答えは明白だった。 まぁ、彼女の口から聞いていた事がヒントになったのは間違いないが、 頑なに認めようとしない理由は何処にあるんだろうか? 「参ったな…絶対気付かれない自信あったんだけど…。」 「ま、オレだから気付いたんだろうけどね。」 「何その溢れる自信…。」 「それよりさ、ホント大騒ぎなんだよ今。ちなみにね、ちゃんは”連れ去られた”って事になってるよ。」 「嘘っ!?やだどうしよう…。」 「まぁそれはオレがどうにかするからさ。で、ちゃん…って認めるんデショ?」 「……………ま、見つかるとしたらカカシさんだろうなぁとは思ってたけどさ。」 それでも、長い押し問答の末に彼女はやっとそれを認めた。 だから単純に、これでようやく人心地つける、と思った。 彼女さえ見つければ、問題は全て片付くと思っていた。 姿形はどうあれ、見つけ出した彼女を連れ帰ればそれで終わると思っていた。 「そこはオレが何とかする。それより帰る?」 「無理無理無理無理無理っ!帰る根性あったら家飛び出してないってば!」 「じゃどうするの?このままこうしてる訳にもいかないデショ?」 「宿に…泊まってたの。帰れないから…この一週間ずっと。」 「説明すれば信じるよ?あの二人なら。」 「っゴメン…アタシが無理…ホントはまだ…アタシが信じられな…くて…もぉどうしていいのかサッパリ…」 「ちゃん…。」 「だって違いすぎる…あの子達が知ってるアタシはこんなじゃなくてっ…」 けれど、それはオレの勝手な思い込み。 隠れ続けた一週間、その間彼女は何を思って隠れ、どれ程悩み続けたのか? それは、彼女が零した言葉と涙が物語っていた。 頑なに帰る事を拒絶し、何かに怯えるように身体を震わせながら嗚咽を堪え、 涙する彼女をこのまま一人にしておけない。 かといって、このまま宿に帰らせる事も勿論出来ず、 どんな時でも気丈に振舞っていた彼女がこれ程まで弱っているのならなおさらで。 「ともかくウチに…宿はオレが引き払っておくから。知ってるデショ?オレの部屋。」 オレは頷く彼女に部屋の鍵を握らせ、 「オレはゴタゴタを片付けてくる。ちゃんは真っ直ぐ家に…判った?」 何度も頷く彼女の背を押し、その姿が街に消えるのを確認し、 今回の任務の報告を含めたゴタゴタを片付けるべくあちこち駈けずり回り続けた。 そして、オレが彼女が待つであろう部屋へ戻ったのは日も変わった深夜の事となる…。 -------------------- 2009.01.29 ← □ →