本.34


トンデモ事件を巻き起こしたアタシ。当然アタシ自身そんなつもりはサラサラなかったが、
あの日以来、アタシの信用は無くなったらしい主にガキ共限定で。
そりゃ?事情も判らないまま(知らされないまま)無事帰ってきた、良かったー…で済む筈がない。
当然事情徴収っていう当たり前っちゃ当たり前の事後報告が待っている筈だったのに。

「ハイハイ、その件についてはもう終わりにしとけ。無事帰ってきたんだから構わないだろ。」

鶴の一声ならぬ、カカシの一声で強制終了させられてしまった。
だからこその不満、ってトコだろうか?

ともかく、あの一件以来ナルトとかサスケとか、その周辺に含まれる将来有望なガキ共に
生温かい?視線を送られ続ける日々が続いた。
そう、アタシはあの一件で終わりだと思っていた。アタシ自身に起こる変化にしろ、それ以外にしろ。

けど、その安易な考え自体が間違いだった。
厄災ってのはホント、思わぬ方向からとんでもない形でやってくるのだ。





アタシは突如、綱手ばーさんおねーさまに呼び出された。
あっれー?そんないきなり呼び出し食らうような事やらかした身に覚えは正直この最近じゃ無かった筈なんだけど。
と、のんきに構えていた中でそれを告げられた。帰る方法が見つかった、と。

「えーっと。つまりそれは…ん〜…。」
「何だ?嬉しくないのか?」
「や、そういう訳じゃないんっすけど急に言われても実感ないっつーか?」
「まぁまだもう暫く時間はある。別れを惜しむも良し、黙って消える…のはオススメ出来んがな。」
「はぁ…。」
「アイツ等は悲しむだろうが、まぁ…お前も帰りたかったんだろう?」
「そりゃ帰れるもんなら帰りたいっちゃ帰りたいっすけどね…。」
「三代目の遺言だ。が元の世界に戻れる方法を探してやれ、とな。」
「そうだったんっすか…。」

既にアタシの中に、元の世界に帰るっつー選択肢は消滅してたんだが。
それをいきなり現実に突きつけられるとこう実感が沸かないっつーか、既にこの里で暮らして二年になる。
アタシはもう、この里に骨を埋めるつもりでいたし、ナルトとサスケのお嫁さんを小姑(姑でも可)として
迎える日を夢見て糧にして、全然楽勝で生きてけるっつーか生きていくつもりだった。
それが一転、選択肢すら消滅してた帰還可能なんていう事言われても、
マジどうすればいい訳?としか思えない。
アタシはこの世界での生活も、生き方も環境も人にも十分満足していた。

けど、三代目の遺言だって聞いたら”どうでもいい”なんて口が裂けても言えない。
アタシがこうして、ここで生きていく地盤を与えてくれたのは間違いなくあのジーサンで、
ナルト達と一緒に暮らせるだけの力量を得たのもやっぱりジーサンがアタシを認めてくれたからで。

「マジ参ったな…。」

流石にこの問題は、誰にも相談出来やしない。まぁ元々何かを誰かに相談するっていう事が
無いアタシだから、自分で考えて答えをださなきゃならない訳だが。

「今更帰れるって言われても実感沸かねぇっつーの。」

確かに、元の世界に居るたった一人の弟の事は気にならないとは言い切れない。けどヤツはもう
立派な大人で嫁サンもいて、別にアタシが居ても居なくても変わらないっていうか…。

「っていうか…それはココでも同じ?」

アタシがこの里に居る意味は何なんだ?
この里にアタシが居て、変わった事はサスケがこの里を捨てなかったってだけで、
それ以外、誰かの何かが目に見えて変わっただろうか?

「居ても困らないけど居なくても困らないんじゃね?」

何の力も持たない、本当にごく普通の一般人であるアタシに、この里での存在意義など
見出せるだろうか?

「出せる訳ねーっての…。」

ため息と共に零れた言葉は虚しいかな事実で。

「実感すると…ヤバイなこれ…。」

他人の行為を要らぬ世話だと突っぱねていたガキの時代はとっくに過ぎた。
見た目がたとえ成人してなかろうが、中身は十分大人。
だからこそ、相手の好意に何の意図もなく無償のモノだと知り得る訳で、
余計それをむげにする事も出来なくて。

「こういう時だけ思考が大人とかタチ悪いわ…。」

損得勘定で計算してる訳じゃない。なのにどこか打算的な考えがあるんだろうかアタシの中に。

「や、そいういうんじゃなくて………。」

戻ったところで、何もない生活に戻るだけ。
ここで見つけてしまった生きがいだとか、生きる楽しさだとかやりたい事も何もない。
そんな場所に自分の居場所が見つけられなくても仕方ない ───── けれど。

「何でこんなにグラついてんのかな…。」

帰りたくない、と言い切れず帰りたいとも言い切れない。
自分から帰りたくない理由を挙げることも出来なければ、帰りたくない理由もあやふや過ぎた。

「まだまだだわアタシも。」

ガキ共に心配掛け捲って、やっと本当の意味で地に足が付いて?
図太く生きていこうって思いっきり拳握り締めて誓った筈が、
存外脆いものだ人間ってヤツは。

「どうしよっかなぁ…どうしたらいいんだ?なぁ…」

腰にぶら下がり、揺れる狐面を手に取り、
返事のない相手にしか零せない愚痴を漏らすアタシは暫くの間、

『大丈夫かしら?最近あのお面相手に独り言多いらしいのよ!』

そう近所で噂される事になるのだった。





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2009.05.27