本.35 ほんの数日、任務で里を空けただけだった。 その僅か数日で何が起こったのか?俺に対する子供達の刺々しい視線も態度も消え失せていた。 そして、それら全ての視線はちゃんへ向けられていた。 元々、子供達は彼女が好き(恋愛感情ではなく)で、その想いから彼女に視線が向けられるのが常だったが、 その視線に含まれる意味が明らかにこの数日で大きく変化していた。 そして、その子供達の視線の中心に居るちゃんの様子がおかしいのは誰の目にも明らかだった。 「最近ねーちゃん変だと思わないか?サスケ。」 「上の空…が多すぎる。何かあったのかもしれない。」 「心当たりは無いのか?」 「カカシ先生!?」 「特に何もなかった。急に…。」 「そうか。」 「カカシ先生は何か知ってるのか!?」 「いや、オレは何も知らない。」 「本当…か?」 「今更嘘付いてどうなる。」 「………そうか。」 子供達も知らない内に、また何か起きたのだろうか?と、ちゃんに探りを入れても 「は?何ソレ?別にいつもと変わんないけど???」 「ぼんやりしてる、上の空、話を聞いてない他諸々の苦情が出てる。」 「何かあったら言うって。今更カカシさんに隠しても仕方ないでしょ?」 「確かにね。本当に何も無いならいいんだが…子供達が随分心配してるよ。」 「ったく何勘違いしてんだかねぇ…。」 「無いとは思うけどまさか恋煩いとか…。」 「全然ありえねーよ。」 「あっそう…。」 本当に何もない、身に覚えがない、といった風の返事しか返って来ない。けれど、ふとした瞬間見せる表情が どうにも引っ掛かった。あの表情は子供達が大騒ぎした彼女の行方不明事件の最中、 彼女がオレだけに見せた不安に満ちたものに似過ぎていた。 「聞いて素直に吐く、ってのは有り得ないだろうし…。」 判らないものは探ればいい。それはオレ達の十八番であり、それに気付けない子供達は所詮まだまだというだけの事。 「頑張ってみますか。」 オレはともかく、自分が里を空けていた数日の彼女の足取りから洗う事にした。行動の全てを含めて。 その結果、オレが見つけて子供達が見つけられなかった事は 「綱手様が原因…って事か。」 ちゃんが綱手様に呼び出された、という事だった。 これに関しては、緘口令でも敷かれていたのかオレでさえ知るのに手間取った事実。 「何が飛び出してくるか…が問題ってとこか。」 綱手様が絡んでいて彼女が考え込むような事。 おまけに緘口令が付けば安易に想像の付くものではない事だけは直ぐに判る。 「考えて判らない事は聞けばいいだけの事。」 事情を知る相手は敵ではない。内容次第で簡単に知り得る事も出来るだろう。 「じゃ、行ってみるとしますか。」 そしてオレは知る事になる。綱手様の口からちゃんが何をオレ達に隠し、何に頭を悩ませているのか?を。 ─── 冗談じゃないっ!! オレは自ら望み、聞いた事実が信じられなくて。いやそれ以上に許せなくて叫びたい衝動にすら駆られた。 『三代目からの遺言だったんだよ。が帰る方法を探してやってくれ、ってね。』 『まさ…か!?』 『見つかったんだよ。四代目の遺品を手掛かりに見つけたってのが正しいんだが。』 『っそれで…彼女は何と?』 『迷ってるようだったよ。そりゃそうさ、この機会を逃したら二度と帰れないんだからね。』 『どういう意味ですか?』 『星の巡りと月の巡り、時間と場所と…全ての条件が整うのが百年に一度だけ、って事さ。』 『それが…。』 『二十日後の明け方…ってトコだろうかね。』 『その事は?』 『しか知らないよ、って今お前が知ったか…。』 『ナルト達には?』 『あの子達にアタシが伝える訳ないだろう。それはの役目じゃないのか?』 『それはそうですが…。』 『勿論お前もその内の一人さ。の口から聞かなけりゃならない。だろう?』 『判りました。』 行方が判らなくなっても何者かに連れ去られたとしても、オレやナルト達で探せば済むだけの話だ。 けれど、それとこれとは余りにも次元が違いすぎた。 オレ達の知らない、見た事も聞いた事もない、行ける筈の無い場所へ行かれてしまっては打つ手がない。 ─── ちゃんは…望むだろうか? あれだけ可愛がっているナルトやサスケや、子供達を残して帰ることを彼女は望むだろうか? ─── たった一人しかいない弟がいた…筈。 血の繋がったたった一人の存在を無碍にして、赤の他人の子供達と居る事を望む者が居るのだろうか? ─── オレならどうする? この里で、彼女が自分らしく一からやり直そうと決めた矢先だというのに。 オレが、彼女に対して抱いた感情が何なのか?漸く気が付いたというのに。 「何でそうなるっ!何で今更っ!!」 手の届く場所に居ながら、中々手の届かない彼女との距離を、 時間が掛かっても構わない、必ずその距離を縮めてこの手に…と決めたばかりだというのに。 「冗談じゃないっ!っだれが…。」 ─── 誰が手放すものか! -------------------- 2009.05.27 ← □ →