本.36


この里に突如として現れ、あっという間に人々に馴染み溶け込んだ ───── 、という少女。
子供達に馴染み街に馴染み、疑う事が常のオレ達の中にさえスルリと入り込んできた不思議な少女。

彼女が居る事はもはや当たり前であり、至極当然である。となった今、彼女がこの里から居なくなるという
選択肢など存在し得なかったというのに。一体何の気まぐれなのか?本当に今更どうして?
としか言いようが無いというべきか。ともかくオレはその事実を知り、彼女を如何に引き止めるか?を思案し、
以外にも簡単にその方法を見つける事が出来た。それは、彼女の常日頃の行動を知る者であれば簡単に導き出せる
答えではあったけれど、絶対的な自信を持てる確実な方法だった ─────────── 筈が。










「本気か?」
「仕方ないってばよ…。」
「サスケ。お前はどうなんだ?」
「オレは……オレも仕方ないと思う。」

オレは簡単に考えすぎていた。いや、子供達を甘く見すぎていた。
オレから遅れる事数日、ちゃんの口から事実を知らされたナルトとサスケ。そして、そのナルトやサスケの口から
それを知らされた子供達も含めて出した答えはオレが想像していた物とは掛け離れていた。

「引き止めるつもりはない。って事だな?」
「だってカカシ先生!姉ちゃんには本物の家族がいるんだ!帰りたいに決まってるってばよ…。」
「オレ達に…引き止める権利は無い…。」

要するに、オレが思っていた以上に子供達は大人でオレがガキだった、って事か。

「その顔で言っても説得力はないけどな。」
「っちゃんと…見送れるってばよ。」
「……………。」
「せいぜい後悔しないようにな。」



どんな言葉で揺さぶりを掛けようと、ナルトもサスケも覚悟を決めちまったのか頑として揺らぐ事はなかった。
それは他の子供達も同様で、誰一人としてちゃんを引き止める意思はないようで、結果、
当てが外れてしまったオレは自力でどうにかしなきゃならない事が明白となった。けれどオレは、
子供達のように現実を受け入れ受け止め無理やり納得して諦めるなんて馬鹿げた真似をする気など毛頭ない。

オレしか知らない事実を知ったあの夜、オレは自分の中に或るちゃんに対する感情が何か?漸く気付き自覚した。
時間は幾らでも在る。オレ達の中へスルリと入り込んできた彼女のように今度はオレが彼女の中へ入り込み、
彼女の中にオレという存在を彼女の意思で認識させ、納得した上でその心を手に入れるつもりだった。
なのに ───── 在る筈の時間があと僅かしか無く、早急に事態が動き始めた今。

─── 形振り構ってる場合じゃない、って事だな。

他人の感情に鋭い彼女。けれど自分へと向けられる感情にはどこか疎い彼女。
そんな彼女に遠まわしで手の込んだやり方など通用するだろうか?
答えは多分、否だ。あの彼女にそんな手の込んだ遠まわしのやり方など絶対に通用しないだろう。
つまり、オレに残された方法は一つ。

─── アイツ等には悪いが…。

子供の分際で物分りのいい大人の顔をする方が悪い。
子供である事を逆手に取る方法を思いつかなかった辺りも含め所詮子供は子供。
大人という物がどれだけ姑息であるか、思い知る良い機会だろう。



「後悔先に立たず、って事よーく覚えておくといい。」
「カカシ先生…何言ってるってばよ?」
「どういう…意味だ?」
「別に、そのままの意味だ。」

当たって砕ける気は更々無い。勝機のない勝負に挑む程間抜けでもない。
彼女 ───── 、という少女と出逢い、見続けた中でオレが気付き感じ、知った全てを武器に
ちゃんを必ずこの里に繋ぎとめてみせる。この、オレが。





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2009.07.13