本.37 基本、アタシは悩んだりしない。 悩んだところで仕方ない ───── と、最終的にそう答えを出すのが常だったからだ。 実際、今回アタシにとっての最大級の悩みもやっぱり最終的に出した答えは同じで、 これ以上悩んでも仕方ねーしな、と行き着いた瞬間 「あのさナルト。サスケも…ちょっと話があるんだけど。」 そう切り出して二人に告げた、戻る方法が見つかった事を。そして、サスケにアタシの状況(今この里にいる理由)を 説明し忘れていた事に気付きついでに説明もしておいたんだけど。 ちなみにその時点でアタシは心に決めた事があった。 それは、もし誰か一人でもアタシを引き止めてくれた ───── なら、残ろうと。 そして、誰もアタシを引き止めてくれなければ帰ろう、そう決めていた。 まぁ今更だけど、帰る方法なんかない。帰れなくてもいいやって暮らしたこの数年だから 帰りたいって気持ちよりここで過ごす事の方がアタシにとって当たり前になってて。 ぶっちゃけホント今更どうしろっての?ってのが本音っちゃー本音なんだけれど。 更なる本音を言うとするならば、アタシがどんな風に生きる ───── どんな風にしか生きれないってのに とっくの昔に気付いていた。この里に来る以前に。 散々突っ走って生きてきたんだから仕方ないっちゃ仕方ないって片付けてるのも事実だけれど、 もはやアタシは何か目的がないと普通の生活が出来ないんじゃないか?そう感じている。 過去であれば生きる為、小さな弟を育てる為、その弟の将来の為。 今ならばナルトやサスケを守る(?)為、と何かしらの理由がないと多分、 普通に生きるって事自体、不自由になってしまう ───── そんな気がしていた。 それ自体がアタシの逃げだってのも判ってるんだけれど、もはやこの歳(実年齢)で 生き方が不自由だから変えろって言われても、了解しましたーって変えられるもんじゃない。 だから決めていた。アタシを必要だと言ってくれる人が一人でも居てくれたなら、 アタシは全てを忘れ、この里に生まれて育った人間としてここで生きていこう、と。 まぁ、完全にズルイ大人の腐った考えじゃねーか!って言われたら反論のしようがない。 不甲斐無い優柔不断な大人の卑怯なやり口だって言われても仕方ない。 けれどもう、アタシ自身自分そんな風にしか生きられないんだから仕方ないじゃねーかと思う。 自分、不器用ですから ───── なんて格好良く決められる大御所俳優でもねーし。 ようするに、要か不要か?アタシは必要か?必要じゃないか? それで十分で、それで納得出来る。そしてアタシはそれに従う。 今までアタシはそうやって生きてきたんだし、これからもそうだろう。 だから、アタシはその事は勿論一切言わず見せず悟られず、に事実だけを簡潔に伝えた。 「そっか…良かったってばよ!ねーちゃん弟が居るって言ってたもんな!」 「オレも…いいんじゃないかと…思う。家族が居るなら尚更…だ。」 「アンタ達がそう言ってくれるならそれが一番なんだろうね…。」 「ねーちゃん?」 「…?」 「サスケってば結局アタシの事呼び捨てのままで直すつもり全然ないな。」 「今更どうしろと…。」 「いやホント、残念だよ…。」 そしてこの瞬間、アタシの中でハッキリ答えが出た。 ─── 帰ろう。ここはアタシが居てもいい場所じゃない…。 使い道だとか、利便性がどうとか、利用できるかどうとか ───── じゃない。 アタシは単純に、二人の中でのアタシという存在が居ていいものなのかどうか? 二人がアタシに対して少しでも ───── 居て欲しいと思ってくれるのかどうか。 単純にそれが知りたかっただけなのかもしれない。 自分からここに居たい、そう口には出来ないくせに、誰かに必要とされたいってー考え自体間違ってんだろうけど。 所詮アタシはここに居させて貰ってる側の人間なのだ。 ここに生まれ育った根っからのこの世界の人間じゃあない。 そんな立場でそういう事を口に出せるか?つったらアタシは出せない。 大雑把で言いたい事はハッキリと言うタチだけれど、アタシはそういう事に関してだけ臆病なのだ。 ホント、面倒臭い生きモンだわ大人って。 素直に自分で”ここに居てもいいですか?”って言えたらよかった ────────── のに。 帰る事を勧められ、帰る事に決めたアタシ。 それを決めてからナルト達との関係に変化は無い、一見した感じでは。 けどやっぱり子供ってのは敏感で、アタシが無意識に作り出してる壁みたいなもん?を感じ取ってんのか 妙に余所余所しい。寧ろあんま近寄ってくんない。 寂しい、マジ寂しいんだけどその仕打ちはっ!もうアタシ明日帰っちゃうんだけど!? って溜め息ついて愚痴った所で所詮腹ん中で言ってるだけだから何の解消にも解決にもなんねぇし。 「もしかしたらさぁ、来た時みたくうっかりまた来ちゃったりするかもしんないからこのまま置いてく事にするわ。」 「────────── うん。」 「でさ?聞いてる?」 「────────── ああ。」 嘘言ってんじゃねぇよ。お前等二人ともまともにこっち見てもねーじゃん。 「明日んなったら行く。時間夜明け前らしいし。」 「っそんな早いのか!?」 「日の出前だってー…。」 「は……。」 「ん?どうしたサスケ?」 は…って何。ぽかーんと口開けてその続きは一体何!ってとじーっと見返しても 「何でもない…。」 結局そうなる。 ったくなぁ、このやり取りをこの数日の間に何回繰り返したと思ってんだろうかコイツ等は。 「アンタ等さ、喧嘩ばっかしない。わーった?」 「判ってるってばよ…。」 「特にサスケ、ナルト構い過ぎないように。」 「オレはそんな事した覚えはない。」 「アンタがそのつもりでも、結果がそうなんの。判った?」 「……………判った。」 「あのっ…さ、オレ…。」 「何?」 「なんでもないってばよ…。」 「そ。」 「…そのっ…。」 「何?何なのアンタたち。言いたい事あんならハッキリ言いなよ男なんだから。」 「何でもない…。」 ホントにさ、何て大人げないんだろうアタシは。 大人気ない上に可愛い気もないってマジ終わっとるわ今更だけど。 いーじゃん判ってんだし!どうせアタシが素直じゃないからこうなったんだしもうどうでもいいわっ!!! そして数時間後、 「じゃ、ナルトもサスケも元気で。お互い達者で暮らそーぜ?」 簡単すぎるにも程がある最後の言葉でアタシは二人に別れを告げて ────────── 家を出た。 約束の場所は人目に付かない遠く離れた山の中。と言いたいとこだったけど。 実際そんなお約束なんてありゃしない。寧ろ”それはねーだろ!?”な、本当に以外な場所が アタシがこの世界から元の世界へ帰る場所として選ばれていた。 ─── しっかしなぁ…何でよりによってあそこな訳!? 誰が決めたかぁ知らないがどんなセンスしてんだよったく。な、場所とは。 「余韻もへったくれもあったもんじゃねぇなぁヲイ。」 家を出て目と鼻の先、アカデミー屋上だった。ったく、手っ取り早いにも程があんだろうがよぉ。 と愚痴を言っても仕方ない。何つーか雰囲気っつーか流れ?じゃねぇけどさ。 どうにも家に居辛いっつーか居た堪れないっつーか、んな感じでアタシは自分が帰る場所がどこか?を言わないまま家を出てきた。 だから、よもやアタシが目と鼻の先のアカデミーの屋上目指してるなんざ誰も想像しねぇわな!ははは。 「てか早く出すぎた…。」 そう、居た堪れなくて逃げるようにしてちゃっちゃと家ぇ出たはいいが。 約束の時間までまだ大分ある。 アタシが亀並みの歩行速度だったとしても2往復位は軽い時間が有り余っとる。 「どっかで時間潰す…か。」 どこか静かな場所で、静かに時間を潰そう ───── と、アタシの足は自然にあの場所へ向かう。 それは勿論、アタシが初めてこの里へ来たあの公園だった。 -------------------- 2009.07.27 ← □ →