本.39


自分じゃ選べなかった。自分じゃ決められなかったからアタシは帰る事を選んだ。
けれど、アタシは自分じゃ出来なかったその全てを貰い、結果としてこの里に残った。
二度と帰れないだろうアタシが生まれ育った世界を捨てる決意をして。

とはいえ、元々その世界に未練があった訳じゃない。むしろ今居るこの里の方に未練があった。
だからアタシは自分じゃ選ぶ事も決める事も出来ず、誰かにそれを求め、そしてそれを得た。
うん、得た。アタシがここに残る道を得た。得た ────────── んだが。

どのツラ下げて家に帰ったか?は、ありがちな”帰るの止めたんだよね、あはは”みたいなうやむやと誤魔化しで乗り切った。
玄関を開けた瞬間、ナルトとサスケが飛び出して迎えてくれた事もそりゃ嬉しくて思わず泣いた位だし?
それはいい。それは嬉しいから全然OKで出迎えてくれた二人も僅かに涙浮かべてたからホントにいいんだけど。

問題は敵の行動にあった。徹底した根回しに走った敵はアタシが帰るよりも早くウチを訪れ、
お前は敵の首を取ったどこぞの武将か!?な如くどや顔でアタシが残った事を報告に来たという。
その、余りにも大人気ない態度にムカついた二人は共謀し、
叩き出して締め出し ───── たのは当たり前っつーか思い切り褒めてやったが。





「どうにも納得いかないよなぁ…。」
「何か納得いかないってばよ…。」
「絶対納得いく訳ない…。」
「いい加減納得したら?事実なんだし。」

叩き出されようが締め出されようがめげない上忍、はたけカカシは今日もどこからともなく宅へ侵入し、
ちゃっかり晩飯の団欒に馴染んでいた。当たり前の顔をしてこれまで以上の頻度で。
それも含め、納得いかないアタシとナルトとサスケと、一人納得してるカカシ。

「アンタに言われたかねぇよ!」
「そうだってばよ!」
「さっさと帰れ。」
「三人とも現実を見ろよ?」

余裕綽々なその態度が当然アタシ達三人を煽りまくり。
それを知ってか知らずか?ってか知ってるだろ判ってんだろ判っててやってんだろてめぇ!な
態度が本っ当に癪に障る。おまけに!

「大体、お前等二人ともオレに感謝するならともかく何反抗してんだよ。」
「っそりゃ…そうだけどさ…。」
「それはそれ、別問題だ…。」
「っサスケの言う通りだってばよ!」
「オレが居なけりゃ今は無い。」
「っ!?」
「ちっ…。」

いい負けしてる上に迫力に飲まれてる。ダメだこいつら使えねぇ ───── からアタシは念じた。
頑張れナルト!負けるなサスケ!蛇に睨まれた蛙になるな!どうせなるならナメクジになれ!と、ひたすら念じたが。

「ちゃんはどう思ってんのさ?」

や、そこでアタシに振らないでくれ。
寧ろそこでアタシに振る意味が判らんわ。

「ねーちゃん…。」
「…。」

ちょ!そこで捨てられた子犬みたいな目でアタシを見るんじゃねぇよお前等!一匹野良が混じってっけど
ともかくそんな目でアタシを見るなっ!自慢じゃねーけどアタシは女と子供と小動物と押しに弱いんだ。

「ア…アタシは…。」
「ちゃんと言ってみろよ。そうしたらコイツ等だって納得するだろ?」
「あっ…あの…あ…っ…」
「ねーちゃんっ!負けるなってばよ!」
「流されるんじゃない!」
「一度口にすれば後は楽になる。だから…さ?」
「アタシはっ…。」

どうしろと?

「無理強いしたくない、ってオレの気持ちは理解してるよな?」
「カカシ先生卑怯だってばよ!」
「上忍の風上にも置けない卑劣さだ…。」

気付けば、向かいに座ってた筈のカカシは何故か真横に陣取ってる。
んでもってその両脇に張り付くようにナルトとサスケが立ちはだかってて、もはや ───── 収集つくのかこれ?

「 ────────── 寝る。」
「ねーちゃん?」
「よく聞えなかった…んだが。」
「アタシは寝るっ!寝るったら寝る今すぐ寝るっ!!」
「ちょ!ちゃん!?」
「お前は帰れ!今すぐ帰れ国に帰れそして二度と戻ってくるんじゃねぇぇぇぇっ!」
「いや、オレ生まれも育ちも…。」
「ナルトサスケっ!」
「何だってばよ!?」
「どうした…?」
「寝るから来い。三人で一緒に寝るからソイツは放置して今すぐ来いっ!!!!」
「ちゃん何言ってんの!?一緒にって風呂だけじゃ足りないってか!?」
「うるせぇぇぇぇぇっ!」

こうして、今日もまたこんな感じの夜は更ける。っつーかこの数日こんな夜しか更けてない。
むしろもう暫くこんな日が続くんだろう ──────────────────── か。
何かヤダ。すんげぇヤダ。





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2009.08.06