本.43


僅かに風に乗って運ばれてきた血の匂い。オレ達の抱いた釈然としない何か?の正体がそれだと気付いたのは

「何だよこれっ!」
「 ───── っ!」

ちゃんに追いついた場所に在り得ない ───── 有ってはならない光景が有ったからだった。
血溜まりの中、完全に事切れた亡骸が三つ。ちゃんの護衛をしていたこれが初任務の下忍達。

「ねーちゃんはどこだってばよっ!」
「無事なのか…?」
「いや、かなりマズイ状態だろう。」

その三つの亡骸の中にちゃんの姿はなかった。けれど、それが彼女の無事を示す事にはならない。
こうなる前に護衛の彼等が危険を察知し、依頼主であるちゃんだけでも安全な場所へ
避難させる事が出来たとは到底思えない。仮に彼等が優秀だったとしても、だ。
その上、夥しい血の量は三人分にしては余りにも多過ぎた。

「急いでちゃんを探すんだ!」

だからこそ、急がなければならない。
それが例え ────────── 既に手遅れだったとしても。










護衛の下忍達が命を失った場所から点々と続く跡を辿り、その先に居るであろうちゃんを必死で追った。

───── どこだっ!

目印となる血が、追うごとにその量を増している事がオレ達を焦らせ

「いないってばよ!っどこだよっ!!」
「落ち着け!」
「落ち着いてられる訳ないだろっ!!」

ナルトもサスケも ────────── オレですら、ちゃんの姿を見つける事が出来ない。
絶対に大丈夫だと言い切れない状況が焦りを生み、余計な考えだけが先走る。

───── 何であの状況で動いたんだっ!

直面した状況に驚き、逃げようとしてあの場所を離れたとは思えない。
最悪の中で幸いに、命を取り留めたからこそ身を隠そうとしたとも思えない。
今動けば命が危うい事も承知した上で移動したのだとしたら。

「くそっ!」

己の目の前で”子供”であると認識する彼等が命を落とした事が、彼女を動かしたんだろう。
”自分が護衛を頼んだから。自分が護衛を頼まなければこんな事にはならなかった”
一瞬にしてその命を失う様を見て、彼女ならそう思うだろう。
行かせるべきじゃなかったのかもしれない ────────── と、オレが後悔しきれない後悔に唇を噛み締めた時。

「あっ ───── あそこだっ!」
「なっ!?」
「嘘 ───── だろ…。」

新たな血溜まりの中、力無く倒れるちゃんを漸く見つけたのだが。










「手は尽くしました ────────── が。」

僅かながらにも辛うじて息のあったちゃんを急ぎ連れ帰ったものの、オレ達に告げられたのは無情な台詞だった。

「嘘…だろ?」
「何言ってるんだってばよ!ねーちゃんがっ…っそんな筈ないってばよ!!」

そして、肩口に刻まれた呪印さえなければ ───── と呟いた医者の言葉に
犯行が誰の手によるものか?を知った。けれどそれを知ったところでオレ達は何も出来ない。

「後は本人の生きる気力に賭ける他ありません。」

呪印がこれ以上ちゃんを侵食しないよう封印を施し、ただ、彼女が戻ってくるよう祈る事しか出来なかった。



───── オレには何も出来ない…。

オレは、自分の無力さをここまで呪った事があっただろうか ────────── 。





--------------------
2009.11.19