本.47


旅行→不慮の事故→危篤→奇跡の復活から一週間後、アタシは無事退院し、
それからは特に騒ぎが起きる(起こす)事もなくそれまで通りごく普通の生活に戻った。
退院した直後は身体が鈍ってて店を通常営業に戻すまでちょっと疲労を感じていたが、
生活リズムさえ元に戻ればこれまでと変わらない生活を送っていた ────────── けれど。
アタシは誰にも言えない秘密を抱えていた。秘密っていうよりアクシデントかもしれない。
危篤〜奇跡の復活の間に起こったあの出来事は、どうやらアタシを特異体質に変えちまったらしい。

何かの拍子に現れるそれ。それはアタシの意思など完全に無視して突然に現れた。

初めてそれを体験した時は、一体何事が起こったんだ!?と扉の前に立ち尽くしたがそれは当然っちゃ当然の反応だ。
だってよ?店から2階に上がる扉開けた先が全然違う場所に繋がってるって意味わかんねぇよ。
しかも全然違う場所ってのが里のどっかだとか違う里のどっかだとか森だ里の外ならまだいい。
そこはどうみてもあの某商店の茶の間なもんだから呆然とするしかアタシにはどうしようもなくて?
おまけにそうなった瞬間隣に誰か居た場合、その隣の誰かにはそこが見えないっていうか、
アタシ以外には普通に扉の向こうは部屋があるらしく、初めてその現象が起きた時

「珪ねーちゃん?部屋行かないのか?」
「っああ、ちょっと下に忘れモンしてきた…。」
「ならオレ先に行ってる!」
「ああ…。」

隣に居たナルトは普通に2階に行きやがった、アタシを置いて。
当然アタシはその扉の向こう側に行くチャレンジ精神なんざこれっぽっちも無い訳で?
どうしたもんか?としゃがみ込むハメに陥った。

───── まるっきりあん時と同じじゃねーかこれ。

アタシが最初にこの里に来た時のトイレでの出来事。その状況に似てるっていうかほぼ同じ状況がそこにあって。
ここで生きる覚悟を決めたのにそんな現象持って来られてもぶっちゃけメーワクだっての!って事で
現実逃避すべく扉を閉めて開け直したら

───── 全っ然普通じゃねぇか!!!

普通に部屋があった。
一体何が起きてんだこれ!?な超常現象に暫くビクビクしたアタシ。
その、状況が把握出来ずにこっそりビクついてたたった数日の間で、あんな噂が生まれるなんて誰が想像しただろうか…。

ちなみにアタシはしなかった。










(火の無い処に煙が立った日)



「こんにちはっ!」
「こんにちはー!」
「こんにちは。」

お昼終了間際、元気な挨拶と共に現れたのは木の葉隠れの里の未来の美女トリオ、サクラ・いの・ヒナタ。
そんな、可愛い三人組が久しぶりに店に顔出したもんだからアタシは思いっきり贔屓するところから先ずは始めた。
普通の客とは目に見える差別化をし、

「ランチがいい?特別ランチがいい?」
「特別!!」
「はいはい私も特別ー!」
「わ、私も特別が…。」

特別ランチなんか存在しないがアタシの気持ちが通常の8割増しな気持ちだけ特別ランチをご馳走しちゃうぞっ☆
ってな感じで今日のランチである”エビフライ定食”(+おまけのアイスの大盛り:食後)を
個室(風に仕切ってあるお子様用の別区画)に三人前、お持ちする。
未だ残ってる客が明らかな贔屓に文句垂れてるがニッコリ微笑んで(何か文句あんのか?と目で伝え)

「おまたせ。」
「おいしそぉぉぉぉっ!」
「いただきまーす!」
「いただきます…。」

三人三様の反応はそりゃもう可愛いったらありゃしない!眼福至福だわ〜って思わず和んだが。

「ああそうだ。言い忘れてたわ。アンタ達もありがとね?」
「何がですか?」
「何かしたっけ?」
「よく解らないです…。」

久しぶりに顔を見て思い出した。退院してちょっとしてから聞かされた事を。

「お見舞い来てくれたんでしょ?お花!」

アタシが目を覚まさない間、三人は毎日のように違う花を持ってお見舞いに来てくれてたらしい。

「そんなの全然気にしないで下さいっ!」
「私達がおねーさんに逢いたかったから行ってただけだし!」
「二人の言う通りです…。」
「アンタ達っ…!ありがとね?ってそういえば貰い物のケーキもあったわ!食べる?」
「「「いただきます!」」」

貰い物だからお礼にはならないかもしれないけど、それでも三人の気持ちが嬉しかったしやっぱり女の子には
甘いものだよねー?と、食事終わりに合わせるようアタシはアイスとケーキを取りに厨房へ戻った ───── が。

───── いくらなんでもなぁ…っでも昨日はここも…。

アタシは冷蔵庫の前で数秒だが思案していた。
実は昨日、冷蔵庫を開けたらその向こうに茶の間があったのだ。
いくらなんでも冷蔵庫はねーだろ!と突っ込んだものの、扉っちゅう扉の向こうに茶の間が広がれば疑心暗鬼にもなる。
昨日の今日でそれはねーよな?と思いながらも疑いを捨てる事は出来ず。

───── 今んとこ開け閉め1回で戻ってるからなぁ…。

よし!と勢いに任せて冷蔵庫を開け ────────── て無事ケーキを入手した。
そう、アタシはただケーキを取り出しただけだ。で、そのついでに取り出す前に数秒、
冷蔵庫の向こう側をうっかり想像したら茶の間を思い浮かべちまった事に溜め息を付いただけだ。



「ごちそうさまでした…。」
「また来てもいい…?」
「おいしかったです…。」
「 ………………(何事!?)」

そして、無事ケーキを手にテーブルに戻ってみれば、どうにも三人の様子がおかしかった。
まぁそこは彼女等も年頃だし?と簡単に考えてたんだけどそれこそ年頃の女の子を甘く見すぎてた。

知らない事は罪だけど、何も知らない間って幸せなんだよな…。















「ちょっとサクラ、あれ見て!」
「何?」
「おねーさんちょっと変じゃない?」
「冷蔵庫の前で…考え込んでる?」
「あ…溜め息!?」
「そういえば…。」
「ヒナタ何か知ってるの!?」
「私、二人より先にお店に着いて…。」
「それでっ!?」
「窓から中を見たときに…。」
「何が見えたの!?」
「お姉さん、何かボーッとしてた気が…。」
「溜め息は!?」
「つ、ついてたかも?」
「サクラっ!」
「いのっ!」
「ど、どうしたの二人共…?」
「あれは恋煩いよ!間違いないっ!」
「恋煩いに決まってるわっ!」
「か、勘違いなんじゃ…。」
「「だっておねーさんの表情、ヒナタがナルト見てる顔と同じだもん!」」
「っ!?」
「きっとお見舞いに来てた誰かがおねーさんの寝てる間におねーさんしか判らない方法で何か!?」
「ぜったいそれよ!その相手が誰か解らないままおねーさんはその相手が気になり始めて!」
「もしかしたら相手に気付いてるから悩んでるのかもしれないわっ!」
「相手の思いにどう応えたらいいか判らなくて悩んでるのよっ!」
「いい返事したいけどどう応えようか迷ってるのかも!?」
「嘘っ!?じゃ恋煩いじゃなくて成就寸前!?」
「だっ、誰だろうね?相手…。(絶対違うと思うんだけど…。)」
「サクラ…気にならない?」
「気になるよね?イノも。」
「ね、ねぇ二人共…。」
「相手探しておねーさんの恋愛成就のお手伝いしたくない?ヒナタは。」
「おねーさんだって恋人の一人や二人いてもおかしくないよね?ヒナタ。」
「(一人でいいと思うんだけど…。)」
「「私達三人で相手を探るわよっ!」」
「ええっ!?(わ、私まで!?)」





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2010.02.22