本.51


───── 絶っ対おかしいよな…。

周囲のアタシに対する態度がおかしいと気付いたのが昨日。
そしてやっぱりおかしいと感じたのは昨夜で、それを”間違いない”と確信したのが朝の事。

「ん…?」

三人が家を出てから始めた掃除と洗濯。
アタシは掃除と洗濯の間中、さっき出て行った筈のナルトとサスケの視線を感じていた。
その、隠す気があるとは思えないあからさまにも程がある凝視するような視線は延々と屋根裏からアタシに向けられてたが。
問いただすヒマなど無いこれでもアタシは仕事持ちなのだ。
おまけにアタシは早急に解決しなければならない問題を抱えてて、今日にもその問題を解決すべく行動しようと思ってたっつぅのに。

「ちっ……邪魔だな。」

理由も解らなけりゃ心当たりもねぇが。
多分アタシは見張られてんだろうどうしてやろうかアイツ等。
取り合えず、相手にしてる暇はねぇしどうにかしてアイツ等の目を盗んで一人にならなきゃならない。

「さて…バルサン焚くか。」

かといって可愛いあの子達に止めを刺すつもりはねぇし今後、そんな予定もないが今は一先ず足止めしなけりゃならない。
数日前、偶然アスマさんから手に入れた痺れ薬(勿論ネズミ捕獲用であって人体捕獲用じゃない)を設置即点火し

「暫くは動けねぇから安心して大人しくしてろ!」
『ひでぇよねーちゃ……。』
『だからここは止めとけって言っ……。』

即効性のある痺れ薬によって口も痺れてるらしい二人に勝利宣言をカマし、携帯を引き掴んでドアに鍵掛けて表に飛び出したが。

「オイオイ一般人相手に総当り戦やるつもりかよ!」

表の通り向こうにある樹から再び知ってる視線を感じた。
あれはおそらく未来の美女トリオだろうナルト&サスケ同様お前ら隠す気ねぇだろ…な視線を真っ向から向けてくる。

「マジで何やってんだよあの子達まで…。」

が、三人の内の一人の視線がどこか遠慮がちっつぅかオドオドモジモジソワソワしてるのに気付いた。

「ヒナタ…か。」

そして、昨日の昼飯時にヒナタがトンカツを咥えながら涙してたのを思い出す。
おそらくヒナタは参戦してるものの実の所は逃げ出したくて仕方ないんだろう

「そういや皿片付けてた時に……。」

後片付け最中にこっそりやってきたヒナタがアタシに何かをくれた。
アタシはそれをポケットに仕舞ってそのままにしてたのを思い出して取り出してみれば ────────── 案の定。
ヒナタがアタシにくれた一枚の紙には”何かあったら合図してくださいごめんなさいごめんなさい”と書かれてた。
けど、文字が所々涙で滲んでるっぽいのは何故だ!?
うんまぁお姉さん見なかった事にするよ…と見なかった事にしてヒナタに合図を送ってみた。
すると、ヒナタは一体何をやらかしてくれたのかは知らないが突然の地響きと共に大きな樹が姿を消した。

「どうすんだよ景観破壊じゃねーか!」

思いっきり見通しが良くなっちまった通りを唖然と眺めたものの、即我に返ったアタシ。
活路を与えてくれたヒナタに感謝し、心の中で手を合わせ感謝をし

「おし、これで大丈夫だろ…。」

辺りに視線がない事を確認した上で再び移動を開始した ────────── のだが。
木の葉の里の忍の総当り戦がそこで終わる筈はなかった。

「どいつもこいつも随分ヒマだなオイ!」

次なる死角は街中に突如現れた。

「ネジとシノ…厄介な。」

チッ…と舌打ちしたのはナルトやサスケみたいに扱いやすい相手じゃなかったからだ。
妙に大人びてるっつぅかこまっしゃくれてるっつぅか、大人顔負けの冷静な判断で行動しやがるからタチ悪ぃ。
ガキだと気ぃ抜いたら負けるのは間違いなくアタシだ。
さっきまでの二組とは違って一応は隠そうとしてるらしい視線を背中に感じながらアタシは対策を考える。

「っとまてよ…確か!」

そしてさっき同様思い出した。

『何かオレだけ乗り遅れたらしいんだよな…つまんねぇから邪魔してやろうと思って。』

昨日の昼の謎集会解散後、集会に参加してなかったキバがフラリと店に現れ、そう言って何故か発炎筒をくれた事を。

つまりこれはアタシが思うように使えって事なんだよな?
ヒナタん時みたいにこれ使えば何か起きるって事だよな?

何が起こるかは解らない一か八かの賭けみたいな事に頼る不安はある。
けど何か起こったとしてもそれはアタシの所為じゃねぇし。
カバンに入れてあったそれを取り出し意を決して筒の下に下がってる紐を引っ張ってみれば

「…………………………何もなし?」

煙が出る訳でも火が出る訳でもなく、全く何の変化も起きなかった。

「ダマされたのかアタシ…。」

それでもキバを信じ、変化のない筒を振ったり叩いたり折り曲げようとした瞬間 ────────── 悲鳴が聞えた。

「あの声…ネジとシノ?」

あんな取り乱した悲鳴をあの二人が上げるとは思えない。
けど確かにあの声はあの二人の声で、アタシはその声の方向に移動しながら声の主を確認しようとして…効果を見た。
砂埃を上げて移動する大量の何か。
その何かの上に乗ってるっていうか乗せられてるっていうか運ばれてるネジとシノ。

「先頭走ってるのって赤丸!?」

赤丸を先頭に、大量の野良犬が砂埃を上げて街中を暴走しながらネジとシノをどこかへ運んで行く。
成る程これがキバがくれた発炎筒の効果なのかすげぇなこれあと数本くれないかな…。

「って感心してる場合じゃねぇし!」

使用済みの発炎筒を握り締め、決意新たにアタシは目的地である顔岩のある山へと向かう。

───── 次来るとしたらあの二人か。面倒臭ぇなぁもう…。

現れるであろう新たな刺客への対策を練りながら。





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2010.04.05