本.53 脱落組以外(はもうオレとシカマルとチョウジだけだったが)で山に足を踏み入れたちゃんを追って二手に別れた。 オレは山頂で待ち伏せをし、シカマルとチョウジがちゃんを追ったんだが。 「何でオレ達ちゃんを追ってるんだ…?」 朝、綱手様に召集された場所(アカデミー裏)には関係者全員が揃っていた。 そして今日こそ白黒ハッキリさせるのだ!と鼻息の荒い綱手様の勢いに押されて 全員ちゃん尾行を開始した ────────── 直後、何時に無く慌てるちゃんの姿に綱手様が追跡命令を出した。 ”逢引相手の元に行くつもりだ”と言い切って。 今だ相手が未確認の状況でそれはないんじゃ…と誰一人言えず、全員でちゃんを追うハメになったんだが、 候補に上がった全員が全員この場所とは程遠い場所でそれぞれが行動している事が確認された。 「根本的に何か間違ってるんじゃないのか…?」 事の起こりはサクラ達の”おねーさんが恋してる”発言。 あれ以降一人また一人巻き込まれ、あれよあれよという間に大騒ぎになって今日まで来てしまった。 周りの勢いに押された形でオレもここに居る時点で人の事を言える立場じゃないが 「ちゃんにそんな暇あったか…?」 オレの積極的な態度でオロオロしてたちゃんが、オレの目を盗んでそんな相手を作る暇があっただろうか? 彼女に、店と子供達以外に感ける暇はあっただろうか? オレの知る限り、そんな暇は無かった。断言出来る。 「何か嫌な予感が………。」 散々アスマに『冷静になれ』と言われた。 言われた時は頭に血が上ってそれどころじゃなかったが、 こうして一人になって考える時間が出来て冷静に考えれば事実は自ずと見えてくる。 「ああ…マズイな。」 これは完全にオレ達の失敗。 サクラ達の誤解に全員が踊らされたが、ちゃんの逆鱗に触れるパターンだ。 しかも今回は参加人数が多すぎた ────────── が如何せん参加者はオレ以外ちゃんが可愛がってる子供ばかり。 つまり怒りの矛先はオレ一点に集中する訳だ。 ゴクリ オレは息を呑んだ。 数日に渡る執拗な追跡に、ちゃんは辟易としているだろう。 怒りの量も当然膨れ上がってるに違いない。 その怒りの全てがオレ一人に注がれるとしたら? 「 ……………。」 想像しただけで思考が止まった。 想像する事すら全身が拒否した。 「もうそろそろ来る ────────── 前に離脱…。」 したらしたで何で途中で子供達を放っておいて自分だけ降りた!と責められそうだ。 「逃げ道は断たれた…か。」 もはや、オレに逃げ道は無く残された道は唯一つ。 「土下座で許してくれると助かるんだけどな…。」 額を床に擦り付けて土下座したら許してくれないだろうか許してくれないよな絶対。 そして、土下座する時は額当てを外してすれば多少は許してくれるんじゃないか?と甘い事を考えていた時。 「カカシ先生…悪ぃ。」 現れる筈のちゃんより先にシカマルがバツの悪そうな表情で現れた。 「何かあったのか!?」 「ねーさんに……。」 バレたのか!? 「ちゃんがどうした?」 「それがよく解らねーんだ。急に…。」 急に暴れだしたのか!? 「急に?それよりちゃんは?」 「逃げられちまった。」 良くやった!じゃないだろオレ…。 「逃げられた!?追跡に気付かれたのか?」 「逃げられたっていうか…帰っちまったんだ、ねーさん。」 「どういう事だ?」 「途中で急に立ち止まって…山から降りちまったんだよ気のせいじゃなかったら涙ぐんでたかもしれない。」 「……………悪いもっかい言ってくれないか?」 「涙 ぐ ん で た か も し れ な い 。」 「チョ…ウジはどうした?」 「一応ねーさんの後追ってる。」 「そっ、そうか…。」 「オレもチョウジの後追ってねーさん追いかけようと思う。」 「っああ、オレもそうしよう…。」 ちゃんが涙ぐんでいた。 あのちゃんが涙ぐんでいた!? 嘘だろ…と口に出さなかったのはシカマルが居たからで、もし目の前にシカマルが居なかったらオレは膝から崩れ落ちていただろう。 怒り狂うならともかく、涙ぐんで…ってもしその理由がオレ(達)にあった場合、土下座で済む問題じゃない。 ───── 何でこんな命懸けの勝負に出たんだ!?誰の所為だっ!!! 命を持って償えば許しを請えるのか!? いっそ被害者を装っ…………ダメだ良案が浮かばない。 止まった思考は再び動き出したもののシカマルが居る手前、内心を読み取られない事に必死で。 普段の冷静なオレなら気付いただろうシカマルのしたり顔に気付く事が出来なかったのだった…。 「シカマル!カカシ先生も遅い!」 店の前、オレ達を待っていたチョウジが駆け寄ってきた。 気のせいかその表情は青く 「チョウジ、ねーさんは?」 「店に入ってったんだけど物音一つしねーんだ…。」 「ここには真っ直ぐ戻ってきたのか?」 「一応真っ直ぐ戻ってきたんだけど…。」 だけど…何!? 「ずっとさ…俯いたまんまここまで戻ってきたんだ。」 「カカシ先生どうする?」 「どうする?って…。」 今それをオレに聞くのか!? 「なぁカカシ先生どうすんだよ!?」 だから何でそれをオレに聞くんだ!? 「とっ、ともかく中に入って様子をうかが……。」 おう…まで言う事は許されなかったオレ。 おう…の寸前、が、を発した瞬間 ギギギ 音を立てて店の扉が開いた。 そして、身も縮み上がる程の冷気を背負い 「よう…遅かったじゃねぇか…。」 「っ!?」 右手に包丁左手に鍋の蓋を持ったちゃんが禍々しい笑顔を浮かべて現れたのだった…。 -------------------- 2010.04.24 ← □ →