◇◆ Spring -May- ◇◆
              




姫条まどかの場合





今まで色んな女の子見てきたけど、これは強烈やった。
目立つなぁ、なんて生易しいもんやない、とにかく衝撃的な出会い。

入学式も済んで、ボチボチと可愛い女の子の名前チェックしてた頃、
俺は出会ってしまった、とてつもなく不思議な彼女と。





昼飯時。そん時だけは
中庭の日当たりはエエけど人がめったに来よらん場所を
見つけてた俺はそこでのんびり…がお決まりやった。
その日も、いつも通りそこでのんびりしてた。
それまで、今の今まで一度たりとも誰かとかち合った事はあらへんかったのに、
そこに突如現れた侵略者は

---あれは…アカンやろ…。

ありえん格好の女の子やった。

---俺が親やったら泣けるな…。

今時、小学生でもあんな格好せんやろ!!そう突っ込みたくなるような格好のその子は、
俺がいる事に気付いてるのか気付いてないのか、芝生の上に座り込むと
弁当を広げて一人昼飯喰い始めた。

---百歩譲って…汚れんの嫌やから、にしとくか。

制服の、スカートの下にジャージを履く女子高生。
一体どのへんであのジャージ履いてきたんやろか?と俺は気になってしゃーなかった。
黙々と昼飯を喰いながら、時々青空見上げては一人微笑む謎の女子高生。

それからの俺は、天気のええ日、お気に入りの場所で喰う昼飯時間を
その子と共有する事になった。
そんなある日。

『いいお天気ですよねぇ…』

突如その子が呟いた。
もしかしたらそれは独り言やったんかもしれんけど、
俺はその子が話しかけてきたと思ったから

『そやなぁ…めっちゃエエ天気や』

相槌を打った。
彼女と出会って数日後、俺が調べた彼女の名前は””っちゅー名前で。

『ちゃんは毎日ここで昼飯喰うてるけど…誰かと一緒に食べへんのかいな?』
『制服が汚れるから嫌!って断られちゃいました…』
『そらそーやわなぁ』
『ジャージ履いとけば汚れは気にしなくてもいいんですけどねぇ…』
---いや、普通の子やったら嫌がるやろ…。
『まぁ、それはそうやけどなぁ』
『ぽかぽかして気持ちいいのに…』
---確かにそやけど…。
『ちゃん!?』
『ごちそうさまでした〜…』

と、突然彼女はゴロンと横になった。

---さすがの俺でもそれは真似できんわ…。

そして、ウトウトし始めるのは構わへんのやけど。

キーンコーンカーンコーン…

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いたにも関わらず起きる気配すらない。

---ど、どないすんねんこれ…。
『ちゃん!昼休み終わったで!!!』

サボるとか、そういうタイプではなさそうやねんけど。

『zzzzz……』

起きる気もあらへんようやった。

---さ、さすがにこれはありえんわ…。

女子高生が昼飯喰うて、腹膨れたから昼寝して。挙句午後の授業をサボる図。
俺は結局そこから動くに動けへんままに、午後の最後の授業が終わりを告げる
チャイムの音で目を覚ましたちゃんに付き合うハメに陥ったっちゅー訳や。

キーンコーンカーンコーン…

『……あ…寝ちゃった…のか…』
『おはよーさん…』
『あ…おはよ〜…』
---寝ちゃった…のかでエエんかいなこの子…。
『授業終わっちゃったんだ…まぁいっか』
---いっか…ってエエ訳ないやろ普通。
『仕方ない、帰ろ…』
---それじゃまたね〜…。

そう俺に告げてジャージ姿のちゃんは、帰宅するべく教室方面へと消えて行く。

---あ、ありえへんどころの騒ぎちゃうな…。

今まで生きてきた中で、あんな暢気な子見たことあらへんわ。










校外でのそれもまた強烈で……。





週2日、スタンドでバイトに勤しむ俺。
お客さん送り出してふっと見た反対車線の歩道に見覚えのある姿を見つけた。

「今のは確か…」

辺りは夕暮れ時を過ぎて薄暗くなりかけてる時間。
あんな暢気な子が一人歩きするには多少危なすぎる時間な気がしてしゃーなかった。

「店長すんません、ちょっと知り合い見つけたんで5分程…」

店長に許可を貰った俺は、急いでちゃんが歩いてた反対車線の歩道に走る。

「ちゃん!!」

俺の声に反応して振り返るちゃんは

「あ…あれ?何で?」

俺が何でここにおるか?判らんのは当たり前なんやけど。

「自分、こんな時間に何でこんなとこおるんや?」

俺の【こんなとこ】っちゅー言葉に反応したちゃん。
辺りをキョロキョロ見回して首を捻る。

「う〜ん…」
「ど、どないした??」
「考え事してたら道曲がるの忘れてたぽい…」

ハハハ…って笑ろてる場合やないやろ。
どこまで暢気なんやろか…とこっちが聞きたなってくるちゃんは

「帰らないと怒られる…から帰る事にします!では!!」

言うだけ言って方向転換すると、スタスタ…には程遠いのんびりとした
足取りで帰っていった。

---俺が親やったら…

今頃泣いてるわ…マジで。





ケッタイな子や。そう思うんやけど、気になってしゃーない。
顔は可愛らしいんやけどあの性格はマジでどないかせなあかんやろ!っちゅー訳で。

『なぁなぁちゃん、今度の日曜暇?』

放課後、部室に向かおうとしてるちゃん捕まえて声かけてみた。

『えーっと…』
---えーっと、やなしに。日曜は明後日やからそない考えんでも…。

そういうのには慎重なタイプなんか!?
いや、そういう風ではなさそうな気が…。

『ごめんね〜…ちょっとその日は予定が…』
---警戒心ゼロ…ではなさそうなんやけど。
『それじゃまたね〜…』
『しゃーないな、ほなまたな〜』
---ま、しゃーないか…。

来月なったらもっかい誘たろ…。










違う意味で強烈な……。





バイトがない日くらいはちゃっちゃと帰って掃除するか。
って事で、買い物して帰る予定で寄った商店街。

---臨海公園オープン…か。

中々エエ感じのとこっぽいし、誰か女の子誘っていっぺん遊びに行かな。そう思ってた矢先、
発見したのは別のとこに貼られてた公園オープンの広告ポスターの前に立つ女の子。

「ちゃん?」
「あ…こんちわ!」
「寄り道か?」
「部活の材料調達に〜…」
「手芸部やったっけ?」
「さようでございます…」
「さっさと買って帰らなアカンで?」
「了解!」

珍しくテンポ良く会話したんちがうやろか?
ふと疑問に思ったけど俺も買い物があったからそこはその場で別れた。別れたんやけど。
小一時間程買い物した後やった。

---おい…何でまだおんねん…。

さっきの場所から一歩も動いてないちゃんがおった。
何かごっつ声掛け辛い雰囲気の普段とは全然違うちゃん。
俺は、迷いに迷った挙句声も掛けられんまま家に帰った。
それから数日。俺はどうしてもあのちゃんの姿が忘れられんかった。
せやけどあれ以降、ちゃんはいつ何処で合ってもいつものちゃんで。





5月も半ばを過ぎようとしていた頃、俺は再び意を決してちゃんに声をかけた。

「ちゃん!」
「あ、こんにちわ〜…」
「今度の日曜暇?俺めっさ暇で遊びたいねんけどなぁ…遊んでくれる奴おらへんねん」

それやから一緒に遊びに行かへんか?って俺の言葉は次元の間へ追いやられてしもた。

「あ、なっちゃん!」
「ん?どうかしたの?って…」
---藤井奈津実か…。

ノリのエエ、言いたい事もハッキリ言う話やすい女の子やけど。
どうも俺と話す時はキレがないんやなどうも。

「なんや、なっちゃんどないしたんや?」
「なっちゃん今度の日曜日暇?」
「え?あ…うん、今のとこ暇かなぁ?」
「じゃちょうどいいねぇ…」
「へ?」
「はい?」
「姫条くん今度の日曜、暇だから遊びに行きたいんだって。一人じゃ寂しいからなっちゃん…」
---ちょっとまてぇい!ちゃんそれはないやろ………。

もし暇だったら一緒に行ってあげて〜…。そう言いながら微笑むちゃん。

---間違えてもた…。

遠まわしが通じる相手ちゃう事忘れとった。

「いや、ちゃんそやなしに…」
「まぁ幸い今度の日曜は暇だし…の頼みなら仕方ないしね!」
「ホント!?じゃ決まりだ…よかったね姫条くん」

よかったよかった、そう言いながら俺の腕をポンポンっとするちゃん。

---そんな慰めはいらんて…。

仕草は可愛い、天然もかなり度を越えとるけど可愛い。
けどその勘違いはないやろちゃん。

「じゃ姫条!日曜10時に新はばたき駅集合でよろしくぅ。」

5月最後の日曜、俺は訳も判らんまま藤井と臨海公園へ遊びに行く事になってしもた…。










それが一番強烈で……??





日曜日。臨海公園に行く事になった俺と藤井。
特に何か会話がある訳もあらへんし、ブラブラと公園の煉瓦道を歩くだけやった。
けど、さすがにそれはアカンやろ…って事で色々話を振ってはみるものの

---普段よりテンション低いなコイツ

受け答えはあるけど話がどうも続かへんのは何でやねん。
微妙に重いような空気の漂い始めた時、

「姫条さぁ…の事好きなの?」

い、いきなり何言い出すねんな自分!!!

「な、いきなり何言い出すねんななっちゃん…」
「いや、今日ってホントはと遊びたかったんでしょ?」
「いや…そやないんやけど…」
「でも今日ホントはの事誘ったんでしょ?ただには伝わらなかっただけで…」

アハハ…図星やなっちゃん。
乾いた笑いで誤魔化すしかあらへんがな。

「じゃ、どーなの?」
「こないだ…」

しゃーないなぁ…ゲロするか。

「見てしもてなぁ…」
「何を?」
「ちゃんがなぁ…」

俺は藤井の誤解を解く為に、仕方なく俺が見た事、今日こうなった経緯を話した。



「何かよーわからんけど、よっぽど行きたかったん違うかなぁと思ってな…」
「ってイロイロ考えてそうだけど、ぜんっぜん考えてないとこあるしねぇ…」
「そやな…」
「かと思ったら、もしかして考えてないフリしてるだけ?って思う位考えてるかもだし」
「そやねん…」
「ま、そうガッカリしなさんなって!この奈津実サンが慰めてあげるから!」
「優しいやん奈津実サン!!」
---こういうノリ…楽やわ…

今日は今日でちゃんと楽しまな藤井にも失礼やしな。
どっかエエとこないか…ってクルッと辺り見渡した時やった。
視界に入った見覚えのある後姿。

「あ…あれ…」
「えっ?何?」
「見まちがい…やろか???」
「多分…見まちがいじゃないと思う…私にも見えるし…」
「あれはどうみても…」
「どうみても……だよね?」
「一緒におった奴…見えたか?」
「見えなかった…」
「俺も見えんかった…けど」

一瞬見間違えか?とも思たけど。
あれは間違いなくちゃんやった。
時折見える横顔は、俺が一度も見た事もあらへん嬉しそうな表情のちゃんで。

---あんな顔出来るんかいな…。

安心したような、妙に腹立たしいような。

---俺が親やったら…

多分こんな感じなんやろ。

「今日こうなったのは…今一緒におった奴が原因か…」
「かもね…。でも…楽しそうにしてたから…」
「せやなぁ…」

せやあら、まぁ見んかった事にしとくか。
あの暢気なちゃんもあんな顔出来るて判っただけでもエエんちゃうやろか…と。

---俺が親やったら…多分。

そういう事にしとこ…。