◇◆ Spring -May- ◇◆ 5/6 pi pi pi pi pi pi pi … 携帯が呼出音を響かせた。 pi pi pi pi pi pi pi … 眠い…。 このまま居留守を使えばいい…と思ったのに。 pi pi pi pi pi pi pi … 液晶画面に映る名前と番号に電話に出る俺。 『もしもし』 『…もしもし』 『です、もしよかったら今度の日曜日…』 『……やめとく。』 5月最初の日曜に掛かって来た電話。 俺はそう一言だけ言って電話を切った。その訳は……。 5/19 pi pi pi pi pi pi pi … 携帯が呼出音を響かせた。 pi pi pi pi pi pi pi … 眠い…。 このまま居留守を使えばいい…と思ったのに。 pi pi pi pi pi pi pi … 液晶画面に映る名前と番号に電話に出る俺。 「もしもし」 「…もしもし」 「です、もしよかったら…」 「別にかまわない…」 「じゃあ新はばたき駅で待ち合わせね!」 「解った…」 5月半ばの日曜に掛かって来た電話。 俺はそう一言だけ言って電話を切った。その訳は……。 アイツはいつもニコニコと笑っていた。 単独行動していたのも入学当初だけで、この頃はいつも誰かと一緒にいるようだった。 あの日以来。森林公園で一緒の時間を過ごしたあの日から、 俺は自分でも無意識の内にアイツの姿を目で追っていた。 それに俺が気付いたのは、ふとしたことがキッカケだった。 「志穂ちゃ〜ん!」 アイツが名を呼びながら駆け寄る相手。 ---あれは確か、有沢志穂…か。 珍しいというか、不思議な組合せが出来たものだ、と思う。 アイツはいつも楽しそうに有沢と一緒にいる。そして一緒にいる有沢も、 今までとは雰囲気が変わったような感じがした。人を和ませる? いや、相手がアイツのペースに脱力する…というのが的確かもしれない。 苦笑していた有沢の表情が、いつごろからか、柔らかい雰囲気に変わった時 ---アイツの影響…だな。 俺はそう思った。 アイツと一緒にいる事で肩の力でも抜けるんだろう…と。 そう思った時、俺は違うあるとても重要な事に気付いた。 ---もしかして…? もし、俺もアイツと共有する時間が増えたらあんな風になるのか? だとしたら…。 ---俺が…か? 俺が他人に対してあんな風になるのか? ---……冗談じゃない。 俺はもう二度と他人と深く関わるつもりはない。 ましてアイツとはもう…。 ……約束。 あれが原因…じゃない。 あれから起きた様々な出来事は、俺の全てを変えてしまった。 他人の勝手に振り回された幼い子供。そんな子供はいつしか子供は考えるようになった。 どうすれば傷付かないだろうか…と。 そして気付き、自分を守るだけで精一杯になった。 他人と関わらなければ傷付かないし誰も傷付けない。 嫉み・嫉妬・興味本位 どれも気付かないフリをしていれば、いつしか相手はそれ自体を失う…。 ---それでいいんだ…。 『ねぇねぇ、けーちゃんの目、何であおいの?』 不思議そうに尋ねる女の子。 『けーちゃんが見たら、ぜったい青空だとおもったのに…』 の言う通りだったらどんなによかっただろうか。 何もかも、自分にすらもう興味が無くなった今、俺の中に存在する全てはモノクロでしかない。 色彩という人間に与えられた筈の特権は、俺にはもう残ってない。 『けーちゃんが見たら、ぜったい青空だとおもったのに…』 もしそれが現実だったら。 黒と白の俺の世界は鮮やかなブルーだったかもしれない。 たとえ2色しかなくても、それでもアイツの言った通りだったなら……。 ---今確か…。 俺は遠くを歩く有沢志穂と目があった気がした。 それは多分勘違いじゃない。 ---なんで…だ? 何で有沢志穂が俺を見る? ---いや…違う。俺がアイツを… 有沢志穂の横にいるアイツを見ていたから、 アイツの隣にいる有沢志穂が俺に気付いたんだ。 それが、俺が気付いたキッカケだった。 だからあれが最初で最後…の筈だったのに。 5/26 キョロキョロして落ち着かない様子が遠目でも見て判った。 「悪い…待たせたか?」 ---今日が最後なんだ…。 そのつもりで俺はココにきていた。 だからこの間みたいに待ち合わせ時間を1時間も…なんて事はしない。 「全然!今来たとこ!!」 「そうか…じゃ行くか」 駅で待ち合わせた後、俺はアイツを連れて臨海公園へ向かった。 「煉瓦道でも歩くか…」 潮風の吹く海岸沿いの煉瓦道。 ゆっくり歩く俺の一歩後ろを付いてくる。 時折振り返ってみると、それに気付いて嬉しそうに微笑むのはどうしてだろうか? それに、決して隣を歩こうとはしないのはもしかして…? ---気を遣って…るのか? 俺が立ち止まると後ろにいるも立ち止まる。 そのまま向きを変えて並んでも、俺との間には人一人分の距離があった。 ---なんでコイツは… あの時もそうだった。 『どうしたの?』 『…………』 『ほら!』 『…………』 『何で泣く…の?』 『だって…』 『あそんじゃダメって…』 繋ぐ為に差し出した手をじっと見つめたその目から、大粒の涙が零れ落ちた。 大人の言葉に忠実な子供は平気でそれを実行する。それがどれだけ惨い事かということも知らずに。 初めて出会った時も、は一人公園でポツンと佇んでいた。 理由は解らない。ただアイツはいつも、俺がアイツを見かけてから声を掛けるまで、 いつも一人で遊んでいた。 俺が差し出した手を握り返すまで、随分時間が掛かった気がする。 一緒に遊んでいても周りばかり気にしていたは 『けーちゃん…』 『どうしたの?』 『あそんでくれて…ありがとう…』 そう言って泣いていた。 「この辺…いろんな建物ができるんだな」 自然に零れた言葉は正直な気持ちだった。 変わってしまった街並と、変わってない。 俺は昔と今が交差している真ん中に立たされているような、 そんな不思議な感覚に陥る。 「何で…」 「…ん?」 「何も残らない程変えちゃうんだろね…」 残るのは記憶だけ。 この辺りの全てが変わったとしても、記憶に残るこの街の風景は変わらないだろう。 「昔はきっと…こんなに建物なかったんだろうね…」 「そう…だな」 「寂しいね…」 「ああ、緑も随分無くなって…昼寝する場所も減ったな…」 「そっか…」 ---俺は…どうしたいんだろう…か。 「どうか…したのか?」 「なんでもない!」 「そうか…」 ただ景色を眺めて歩くだけの時間。 今を眺めながら昔を思いだす俺の隣には……。 ← □ →