◇◆ Summer  -September- ◇◆










それは偶然に手に入れたもの。
その瞬間、頭に閃いたのは【チャンス!】の文字だった。

---こ、このチャンスを逃してなるものかっ!

って考えると握った拳に力も入る。
夏休みは部活とバイトで明け暮れて、思い出の一つも作れなかった。
けれど時は9月、夏の思い出を作るにはまだまだ十分な季節。

「よぉ〜〜〜〜し!待ってろ姫条ぉぉぉぉ!!」

入手した遊園地の招待券と誓いを胸に、私は2学期の幕開けを迎えたのだった。




















「ねね?ちょっといい?」

今日こそは!と姫条に声を掛けた。
あの誓いから既に2週間もの日々が無駄に過ぎてしまったけど、
今日こそは!と、放課後にやっと捕まえて。

「ん?何やどないしたん?」
---ちっ…相変わらずイイ男だわ。

何て考えてる場合じゃない。今重大なのは、姫条の顔の良し悪しじゃない。

「あ、あのさ…今度の日曜って暇?」
「どやったかなぁ…」

う〜ん、と考え込む姫条。

---あぁもうなんでそんな考え込む顔もイイおとこ…じゃなくてぇぇぇ!

藤井奈津実様とあろう者が何で。何で男の一挙手一投足にこうも翻弄されなきゃならないんだろう。
姫条の心が誰かを思う気持ちを10分割するとしたら、多分私に対する興味は1割もないと思う。
でも、あの子に…に対する興味は多分。

「聞いてへんのかいな」
「え?何?ごめんついボーッと…」

と、自分を探る旅に出てました。

「今度の日曜なら空いてる…けど?」
「マジ?ホントに???」
「ああ、ホンマやけど」
「じゃさ、遊園地行かない?招待券貰ったから行きたいんだけど…ダメ?」
「そやなぁ…特に用もあらへんけど…」

どうにも煮え切らない姫条。
ハッキリOKを出さないのは、二人で行く事に乗り気がしないからかもしれない。

「招待券4枚あるから、あと二人誘うんだけど…」
「それやったら、まぁ…行ってみてもええかな?」

出来るなら二人で行きたかった。
まぁ、それが出来るとは、はなっから思ってなかったけどさ。
他にも誘う、と口にした瞬間、姫条の表情が変わった事が悔しかった。
二人はダメだけど他にもいるならOKって事が、
やっぱり自分は姫条の対象外なんだなぁと思い知らされたから。

「じゃあ今度の日曜、遊園地前に10時でいい?」
「構わへんで」
「じゃよろしくね〜…」
「あ!ちょっとタンマ!」
「何?」

人間、嫌な予感程よく当るというけれど。もしや

「他って誰誘うん?俺人見知りやから一応聞いときたいなと思うねんけど」
---はぁぁぁぁぁぁぁぁ…。

やっぱりね、そうくると思った。
私が誘う相手=、と姫条は思っているのかもしれない。
実際、この後を誘いに行くから当たりなんだけど。

「に声掛けてみるつもりだけど…」
「なるほどなぁ…ちゃんか…。それやったらええわ」
---あからさまだって…。

微妙な変化なのかもしれない。
他の人が見たところで気付かない程度の変化かもしれないけど、
恋する乙女はそんな些細な変化だって見逃さない。
ましてそれが、自分の好きな相手ならなおさらなんですけど!!!

「ほな、また日曜な〜…」
---いっそ他の奴誘ってやろうかしら…。

一喜一憂する辛さ。
そんなものに自分が惑わされるなんて、思ってもいなかったわ、私。

---な、萎える…。

一緒に遊びに行ける事は嬉しい。
でも、その相手が違う相手しか見てないのにそれを見るのは、乙女としては微妙なんです。
ましてその相手が、自分も好きな友達とか、マジありえなくね?とか、ホントどんどん鬱になっていく。
にとって姫条は対象外かもしれない。でーもー!
人の心なんて、何時なにが原因でどう転ぶかなんて、カミサマだって分からない。

「はぁぁぁぁぁぁっ…」

もしも、もしもこれがきっかけでと姫条が…何て事になったら、私は二人をちゃんと見てられるのかな…。





「っ!」

気持ちを切り替えて、私はを誘うべく校舎を徘徊し、前方にを見つけて後ろから抱きついた。

「あ!なっちゃ〜ん」

私に気付いたの嬉しそうな顔。

---な、和む…。

純粋無垢とかっていう表現がしっくりくるというか。
表情や言葉使い、存在に心が和む。それ以上に

「どうしたの〜?元気ない?」
「何言ってんの!この奈津実サマがそんな訳ないじゃ〜ん」

鈍いのに妙に鋭い観察眼がまたそそられる…じゃないけど。
相手の弱った心に妙に敏感なの何気ない言葉が嬉しくなる。

---もしもホントに…。

姫条とがくっついちゃっても、が相手なら頑張って許せるかもしれない。
ホントは!許したくないけど彼女だったら、と思わせるなら。

「それよりさ、今度の日曜暇????」
「ひま〜!」
「遊園地行かない?」
「行く!!!!!!」
「じゃあ日曜10時に遊園地前集合ね!」
「なっちゃんとデートだ〜〜」
---うっ…。

女友達と遊ぶ事に、こうも喜んでくれるなんて。
本当はメインは姫条で、オマケっていうか何ていうか、姫条をスムーズに捕獲する為の餌的役割。
いわばそういう下心アリの私の誘いをこうも喜んでくれると、良心がズキズキ痛む。

「あ、あのさ」
「何?」
「招待券4枚あるから、一応4人で行くんだけど…いい?」
「なっちゃん一緒ならいいよ〜」
---ち、ちきしょう!可愛いすぎる…。

勝気で男勝りで?言いたい事を言い放題な私とはぜーんぜん違う。

---そりゃ男だったらの方がいいよねやっぱ…。

自分でも判ってる、やってる事が姑息だって事くらい。
でもこれだけは譲れない自分の気持ち。

「じゃ、日曜ね!」

のんびり帰っていくの後姿に

---ゴメンね…。

そう呟いて手を合わせ、気持ちを切り替えて次の目標を探すべく校内を徘徊する事にした。





---いた!

校舎内を探したけど見つからなかった相手。
もしかしてもう帰ってるんじゃ?そう諦めかけた時、私は屋上で見つけた。

---どう切り出すかなぁ…。

問題はそれだった。
私は奴の事は好きじゃなかった。

『ねね、これアンタでしょ?』
『だから?』

まさに最悪の第一印象。
そりゃさ、いきなり初対面で【アンタ】呼ばわりしたのは私だけど。
だからって!だから?って何よソレは!
あの澄ました表情というか、人を見下したようなあの目が、私は実は大っ嫌いだった。

なのにこうして奴を探した理由は、あの日見た奴の顔が、私の知ってる嫌な奴じゃなかったから。
初めて姫条と出かけたあの臨海公園で、偶然見かけたと一緒にいた相手だったから。

『一緒におった奴…見えたか?』
『見えなかった…』

私はあの時、と一緒に居た相手が葉月珪だと直ぐに判った。
遠目から見ても目立つんだから、気付かない姫条が鈍すぎるんだけど。

ただ、その時の葉月珪の表情が私の知るものとあまりにも違いすぎたから、
つい姫条には嘘をついてしまった。
そして今回、のOKが出たなら、その時は葉月を誘う事を決めていた私。

「あ…あのさ…」
「……」

返事もせず、ただ私をチラリと見るだけの葉月珪。
用があるなら早く言え、といわんばかりのその表情がめちゃくちゃムカついたけど。

---が、我慢するのよ奈津実っ!!

もうここまで来たら引き返せない。
当って砕けるのも仕方ない!っていうか、
別にコイツに断られたって違う人探すもんねっ!!!!!!!って事で。

「今度の日曜…暇…かな?」

っていうか、何で同級生の男子相手にここまでビビるんだ私は!?

「暇…って言ったらどうするんだ?」
「えっ!?暇なの!?」
「何で驚く…聞いたのはそっちだろ…」
「そりゃそうだけど…」

まさか、アンタとマトモな会話が成立するとは思ってなかったから。なんて口が裂けても言えないけれど。

「急なんだけど…」
「何だ?」
「遊園地の招待券貰ってさ、4枚。3人誘ってあと一人…誰にしようかなぁって…」
「意味が判らない」
---お、落ち着け奈津実!相手は一応人間なんだからっ!
「だから!3人で行くより4人の方がいいじゃん!」
「かもな…。で?」
---で?ってアンタ…そこまで言ったらフツー判るでしょ!!!!
「一緒に行かな…い?」
「何で俺が?」

確かに。そう言われちゃ黙らざるを得ないんですけどね?
こっちには引き下がれない事情ってもんがあるんですよ!!

「あのっ…いや、だから…」
「帰る…」
「もっ!も来る…から…と思って…葉月誘った…んだけど…」

言っちゃった。
どうせなら、当日までナイショにしといて全員驚かせようなんて思ってたのに。
それじゃあコイツは絶対誘えない。
私のカンが当ってるとしたら、多分これで葉月は動く…はず…なんだ…けど。

「何時だ」
「へっ?」
「時間…」
「じ、10時に遊園地前…」
「わかった…」

わかった…判った…分かった…解った…って…?

「く、来るのね!?」
「行く…」
「あ、うん…よろしく……」
---疲れた…。

これならいっそ、思い出なんかいらない!って言いたくなる位疲れた。
はたして、私のこの苦労は報われる…の…だろう…か……?




















そして当日。
今日の為に買った、可愛いけどスポーティな感じの【勝負服】で目的地へ向かう。
気合は十分、むしろ気負い過ぎて空回りしないよう十分気をつけないと、今日までの苦労が水の泡になる。

---自然に、ナチュラルに!頑張るのよ奈津実!!!

自分に喝を入れ、辿り付いた遊園地は待ち合わせ時間15分前。それから待つ事5分。

「なっちゃん早いなぁ」
---キ、キタ!

このまま出来るなら二人で遊園地内に入りたい衝動に駆られるけど、グッと我慢。

「姫条も十分早いって!」

待ち合わせ時間に遅れずに来た姫条と、二人並んで残りの二人を待つ。

「そろそろ来ると思うんだけど…」
「誰が来るんか楽しみやなぁ…」
---え?そっちなの?楽しみはそっちかよ!!!

妙にウキウキしながら当たりをキョロキョロしてる姫条の様子が、
一瞬で凍りついたのはそれからさらに10分後の事だった。

「一応…間に合ってると思う…」
「あ…うん…そう…だねアハハ」
「えーっと…自分確か…葉月…」
「葉月珪」

ボソッと葉月が言った瞬間、姫条が私に耳打ちする。

(もしかして、誘った他の奴って?)
(そうだけど?問題ある?)
(いや…問題あらへんけど…)

「あ、俺姫条まどか言うねん」
「知ってる…」

乾いた空気というか、すんごい微妙な空気が漂う。

「葉月は…ほら、無口だから!」

フォローにもならないフォローしかできない自分の貧弱なボキャブラリーに涙が出そうになるけど、
それももう少しの我慢。もう少ししたら来る!助け船が来るまでの我慢!!!
と、我慢大会が始まった日曜午前10時の遊園地前。私は、沈黙は凶器だ…と悟った。
痛すぎる沈黙の空気が心に突き刺さり続ける30分。

「………遅い…ね」
「………そや…な」

の姿はまだ見えない。
どうかしたんだろうか?と思っている中で、葉月が口にした言葉は意外なものだった。

「迷子…になってるのかもしれない」
---えーっと、迷子ってあの迷子?
「さすがにそれはあらへんやろ…」
「うん、さすがにそれはありえない…と思う…」
「森林公園に来るのに迷子にならない様に1時間とか掛けるらしい…」
「またまた!そんな冗談言うて…」
「葉月って冗談言うんだ…」
「いや、冗談じゃなくて…」
「……ありえそう…やな」
「ありえる…かも…しれない…」

本当に口にしたい言葉はそれじゃなかった。
多分それは姫条も同じだったかもしれない。

何でそれを葉月が知っているのか?

いつのまに?いつのまにそんな風にと?
そんな疑問が浮かんだ時

「ごめん遅くなっちゃった…バス乗り間違えちゃって…」

話題の中心人物であるが、申し訳なさそうに小さくなって現れた。

「大丈夫だって!みんな今来たとこだし!」
「そうそう!俺らも今来たとこやから!!な、葉月も」
「あ…ああ…」

が遅れた理由は、至極簡単で解りやすいものだった。

「あ…うん、ゴメンね……っていうか、何で姫条くんと珪くんがいるの?」
「へ?」
「あ…いや…」
「4人で遊ぶって言ったじゃん、で、誘ったのが姫条と葉月なの!解った?」
「解った、だからいたのか…うんうん、解った!!」

よーし、じゃあ出発〜!という訳で、待ち合わせ時間から遅れる事30分、
ようやく私達4人は遊園地内へと向かった。





「何から乗る?遊園地久しぶりだから選べないかも〜」
「俺は何でもええで?」
「何がいいかなぁ…」
「何でも…」

遊園地の乗り物に多いのは2シート。
いくら私でも自分から進んで姫条と乗りたい!なんて言えないし。

---た、頼んだからねっ!

私はそう祈りつつ、

「は何がいい?」

あえてに話を振った。
多分、なら解ってくれるはず!そう信じて。

「そうだなぁ…ジェットコースター?」
「じゃそうしよっか!は誰と乗る?」
「ん〜…」

はしばらく考えた後、葉月の腕を掴むと

「珪くんと乗ろう…かな」
---よし!よ〜しいいぞ!それでこそ親友よぉぉぉぉ!!

私の願いは見事にに通じた模様。

「じゃ、私は姫条と乗るね〜」
「ほな並ぶか」
「ああ…」

と、先ずはジェットコースターを姫条と堪能した。
まぁ予想はしていたけど?そんなオチは見えてたけど

---あのスピードで会話なんか出来る筈なかった…。

イイ雰囲気とか、そういう次元の乗り物じゃない事を忘れて浮かれたのは間違いだった。
こうなったら次よ次!!!

「次何にする〜??」
「任せるわ」
「何でも…」
「、次何がいい?」

う〜ん…と考えながら、案内地図付きのパンフレットを見る。
あ!と顔を上げたと思うとある1箇所を指差しながら言う。

「今月いっぱいだってこれ!行ってみない?」
「お!オバケ屋敷か。ええんちゃうか?」
---こ、これは…。

チャンスだと思う。

『きゃ〜こわ〜い』
『大丈夫か?仕方ないな…ほら手、かせよ』

こうして二人は手を繋ぎ…ってのがオバケ屋敷のお約束だよね!
よ〜し、よくやったわ!これで一気に姫条との距離が縮ま…る筈が。

「、誰と入る?」
「ん〜…姫条くん!」
「よっしゃ、ほな入るか!」
「おー!」

意気揚々とオバケ屋敷へと入って行くと姫条。

「え?」

そしてその場に残された私と葉月。

---こ、これは…。

もしかしてマズい?ってか何でが葉月じゃなくて姫条とあそこに入りたがる訳!?
ヤバイ、超ヤバくないこれ????
一人あれこれ考えてた私の背を、ポンっと叩くのは…葉月だった。

「……残念だったな…」
---なっ!何よその顔は!!

私を見る葉月は、事もあろうか笑っていた。
こう、笑いを我慢しながらもプッと吹き出しそうなそんな顔。
残念だった…な?って。

「ちょっと、それどういう意味…」
「別に…」

オバケ屋敷に入ろうとする葉月を追いかけ食いつく私。

「じゃなんで笑ってるのよ!」
「こうなるのは目に見えてたと思うけど…」
「む…」

確かに、予想内の想定外というか。
あのだからこそ行動が読めないし、解りやすいって事もあるというか。

---嗚呼もうっ!!

何で私が葉月とオバケ屋敷を楽しまなきゃならないのよ!って考えると、
正直回り見るどころか自然と歩調も速くなるだけで。

「あれ??何でなっちゃん達のが先に出てるの?」

知らない間に二人を追い越したらしかった私と葉月。

「さぁな…」
---嫌な奴!!!

そんなと私を見比べて、クスクスと笑ってる葉月にも腹が立つし、
結局何も出来ない行動を起こせない自分にも腹が立った。

「次!次行くよっ!」
「え?なっちゃん待ってよ…」
「元気やな…」
「必死だな…」
「葉月うるさいっ!」
「……」

その上他人に当るなんて、ホント最悪。
結局その次は昼からにして、軽くお昼を済ませてブラブラしてる内に気がつけば夕方近くになっちゃってた。

「次が最後かぁ…」
「せやなぁ、あんま遅いのもアレやし、次で最後にしよか」
「だな…」
「なっちゃん最後何にする〜?」
---もう、何でもいいわよ…。

正直今日はもう完全に諦めてた。
人をダシにってのがやっぱ悪かったのかなぁ…と、反省せざるを得ないのも物悲しいけれど。

「あ、あのねなっちゃん、観覧車乗りたいかも…」

夕焼けの見える時間の観覧車か。
私に、だめかなぁ?っぽく、妙に可愛く聞くの提案に、私の胸は騒いだ。

---こ、これはもしやホントにマジでいい感じのチャンス!?

最後の最後でこんなオイシイシチュエーションだなんて、さすが私よね!
なぁんて甘い期待は、やっぱりバッサリと切り捨てられてしまった。

「最後だし、私なっちゃんと乗りたいなぁ…」

の一言でそれは決まってしまった。
さすがにコレばかりは野郎共は反論すると思った。実際、

「え?マジかいな!男二人で観覧車とかありえへんねんけど…」

姫条は葉月と二人きりで観覧車は遠慮したいらしかった。
けれど葉月の方はそうでもなかったのか、それともが私と乗りたいと言ったからなのか

「仕方ないだろ…」

そう言うと、と私を乗り場へと向かわせる。

「二人で乗ってこい…」

そうか、アンタはやっぱの味方なのね。と言う訳にもいかず。

「行ってきま〜す…」
「行ってきま〜す……」

最後のチャンスは露と消え、私は夕焼けに染まる街並の見える観覧車へ、と二人で乗り込んだ。



「なっちゃん、ほら…キレイだよ…」
「あ…うん…そうだね…」

私はが嬉しそうに景色を眺める姿に釈然としないまま、ただの言葉を聞き流してた。

「ごめんね〜なっちゃん…私、空気読めてなくて」
「え…?」
「なっちゃんや姫条くんや葉月くんと遊びに来れたから嬉しくてつい…」
「や、やだなぁったら、何言い出すの急に?」
---ば、バレて…た?

私がをダシにした事や、想像以上に姫条と接近できなくてガッカリしてたって身勝手な事した事に?
鈍感なのに鋭いには解っていたのかもしれない。

「友達と遊びに来たの初めてだったから…つい嬉しくて…」

俯いたは、少し照れたような顔でボソッと呟いた。

「や、やだなぁ…、そんなの気のせいだって」

そうとう混乱してきたかもしれない。
疾しい分、仕方ないんだけど、どうにもとの会話が上手く噛み合わない。

「折角だからみんなと遊びたくて…なっちゃん姫条くんと乗りたかったんだよね?」
---やっぱりバレてたのか…。
「ホント、ごめんね?誘ってくれたのに…」
「そんなの気にしなくていいって!誘ったの私じゃん!」

だよねぇ。やっぱ人間下心アリで人に接して、イイ事ある訳ないのにさ。
にこんな風に謝らせなきゃならないような態度見せちゃった私の方が悪いっていうのに。

「またさ、遊びに来ようみんなで!」
「今度は志穂ちゃんも誘って遊びたいね…」
「じゃ今度は女3人で遊ぶかぁ!」

他愛ない会話だったけれど、やっぱこういうのでよかったのかもしれない。
物事を早急に進めようとしたって、それは自分の都合だけしか考えてない行動な訳だし。
姫条の事を諦める訳じゃない、ただそんなにガツガツしたっていい方向に進む筈もないんだから、
もう少し自分にゆとりと余裕を持って行動しなきゃな…って、改めて思わされた。





「今日は楽しかったね!」
「そやなぁ、以外におもろかったわ」
「だな…」
「なっちゃん、また遊んでね?」

日が暮れるまでにはまだ時間はあったけど、今日はこれで解散する事になった。
現地集合だったから当然現地解散するつもりだったのに…。

「それじゃ、帰るかぁ!」
「そやな、ほな帰るわ!またな〜」
「待った!」

それは突然だった。
最初に歩き出そうとした姫条の腕を掴んだはいきなり大声で姫条を呼びとめたかと思うと

「姫条くんまだ帰っちゃダメ!」
---ちょ…一体何言い出すの!?

さすがに葉月も驚いてた。

「何やちゃん、俺に用かいな?」
「うん、大事な用があるの」
---えーーーーー!大事な用って…さっきの観覧車の会話は何だったの!?

姫条を引き止めるの頬が染まってるのは気のせい?とは思えない。
自慢じゃないけど私の視力は両方2.0だ。
妙な胸騒ぎがした。もしかして、やっぱりも姫条の事が!?

「まだ明るいけど〜…女の子一人で帰すなんてダメだよ姫条くん」
「ほな俺はどないしたらええのんちゃん?」
「なっちゃんを、ちゃんと送ってってあげて。招待券くれたのなっちゃんだよ?」
「え!?い、いや、いいよそんなの…子供じゃないんだから一人で帰れるって」
「危ないよなっちゃん、夏の夜は…イロイロとね…」

な、なにその含み笑いは!!!
それよりも、まさかこの土壇場でこんな展開は想定してなかった私。
素直にウンと言えなくて、本当は嬉しいのにいいよ、ってそればっか繰り返しちゃった。

「いい?ちゃーんとなっちゃん送ってってくれないと…」
「ど、どないなんねん?」
「もう姫条くんとは遊んであげなーい」
「ほな、ちゃんはどないすんの?なっちゃんは葉月に送ってもろてもええのんちゃう?」
「それはダメ!葉月くんは、私が送ってあげないとダメだから」

そう言ってウフフ、と笑う。

「あはは…さよか…ま、しゃーないわな」
---え?それってまさか
「俺がなっちゃん送らせてもらうし、ちゃんはちゃぁんと葉月の事送ってあげなアカンで?」
「任せなさいっ!!じゃ、なっちゃん姫条くんまたね〜!」
「じゃ…」

えーっと…こ、これは素直に喜んでいい…のかもしれない。
は葉月を送るんだ!と意気揚々と先に帰っていき、私は姫条と二人その場に取り残された。

「ほななっちゃん、送らせてもらうわな」
「あ、うん…ごめん」
「ちゃんと送り届けな明日ちゃんに怒られそうやしなぁ」
「あはは…かもしんないね」

気を使ってくれたには感謝しなきゃ。
まさかこうして姫条と一緒に帰れるなんて思ってもなかった。
くだらない会話だけが続いたけれど、そんな時間が二人だけの物だと思うと凄く緊張してきた。
そんな事を考えている内に、止せばいいのに浮かぶ思い。

---いっそ…。

告白して自爆するかぁ?とか、どうせダメなんだから当って砕けてみようか?
とかって気持ちがどんどん膨れ上がってくる。
嫌われてはいないと思うけど、好かれてるとは思えない。
そんな事を考えて悩んでる自分の重くなりすぎた気持ちを解消するには、
当って砕けてみちゃうのもいいかなぁ…なんて。
でも、それを私が口に出そうって決めた時、姫条の言葉でそれは叶わないものになってしまった。

「ちゃんて…葉月の事好きなんやろか…」
「ど…うなんだろ…」
「あの子ホンマほっとかれへんっていうか…目ぇ離せんな…」
「うん…」
「あーゆう子彼女にしたら、彼氏は大変やろけどオモロイやろな」
---………。

牽制されてる気がした。何気ない感想っぽい言い方だったけど、
自分はが気になるんだ…って言われてる気がした。

「姫条はやっぱ…の事気になる…んだ…」
「そやなぁ…」
---せめて、当って砕け散りたかったな…。

何も口に出せないまま、砕け散った私の想い。
折角が用意してくれた時間は、そののせいでパァになってしまった。

「彼氏とかまだいなさそうだし…いっそ告っちゃえば?」

言った台詞は半分本気だったけど半分は嘘だった。
そんな気はない、って姫条の口から聞きたくて言った軽口だったけれど。

「そやなぁ…」
「え!?」
「そんな気ないっちゅーねん!」
「どっちよ!」

どっちなの?アンタの気持ちは、に向いてるのか向いてないのかハッキリ言ってよ!
って、ハッキリ言いたかったけど。

「彼女とかそんなん、作る気はまだないなぁ…」
「そ、そうなの?」
---ドキドキドキ。
「面倒っちゅーか、まだ自分の事で手いっぱいやしな」
---いけ!言っちゃえ!!
「じゃさ、私にしとかない?お手軽だと思うけど?」
---い…った…。
「遠慮しとくわ…」
---ガーン…。
「なっちゃん本気やもんなぁ…。嬉しいけど、俺なっちゃんと付き合う位ならちゃんに告るわ」
「酷っ!」
「冗談やけどな…」
---本気だったら立ち直れないっての…。
「ごめんななっちゃん。そういう訳やから、俺はやめとき」
「……」
---わかった、やめとくね…って言える程軽い気持ちじゃないっつぅの。
「別に…いいじゃん、私が姫条の事好きだって思ってるのは自由だし」
「そらそうやけど…」

以外と、言っちゃった後は簡単だった。
スラスラ言葉が出てくるっていうか、もうついでだから全部言っちゃえ的につらつらと言葉が溢れてきて。

「嫌いじゃないならさ、もしかしたらって事もあるじゃん」
「う〜ん…でもなぁ、俺なっちゃんよりちゃんの方が好きやけどええのん?」
「それはキツいけど、それは姫条の気持ちだから仕方ないじゃん」
「ハッキリ言うなぁ自分」
「そりゃそーよ?平気な顔してるけど結構…キツイよ?のがいいってハッキリ言われたら」
「当たり前やわな、俺もよー言うたなぁ思ってる自分で」
「姫条はが好きで、私は姫条が好き、別に問題ないじゃん…」
「いや…そやないねん…」
「じゃ何なのよ…」

姫条曰く、は気になるけれど付き合いたいとかそういう対象ではないらしい。
ただ目が離せなくて、気にはなるけれど、それが恋愛対象としての好きなのか?
と聞かれると、YESとは言い難いと。
自分の気持ちは自分でも解らないし、私の気持ちは嬉しいけれど、
それにYESを出せる程、自分自身余裕はないと。

「まぁ…そない慌てて結論出さんでもええんちゃう?」
「うっわ…なにそれ…すっごいいい加減じゃん…」
「でも…おおきに、なっちゃんの気持ちは嬉しいわ俺」
「だーかーら!じゃあ付き合ってよ!」
「それはアカン。気持ちは嬉しいけど、俺はまだ自分の事でイッパイイッパイやねん、彼女はまだいらん!」
「わかった。じゃ私が姫条を好きだ!ってのはほっといてね?」
「好きにしたらええって…」
「アンタに近寄ってくる女ぜーんぶ蹴散らしてやるわ」
「はいはい、好きにしたらええって」
「後でが、姫条くんの事好き…って言っても、ぜーったい渡さないもんね!」
「それはだからあらへんて…」
「そんなの解んないじゃん!」
「勘弁してぇななっちゃん…」
「ぜーったい姫条の事振り向かせてやるんだからっ!」
「ははは…もう好きにしぃな…」
「たまにはさ、二人で遊びにとか…行くのも嫌?」
「かまへんよ?」
「よーし、なら今日の所はその返事で納得しといてあげる!」
「あーそう…なら俺がちゃん選んでも、泣かんとってや〜」
「大泣きしてやる!の前でわんわん泣いてやろ〜っと」
「もーええっちゅーねんな…」
「はースッキリした…」
「そらよかったな…俺はめっさ疲れたわ…」

ほな、この辺で!またな!
姫条はそう言って、帰っていった。

「はぁぁぁぁぁぁぁ…っ…」

何これ。もう訳わかんない。私→姫条→→葉月?って感じ?
違うな、ハッキリしてるのは私から姫条に対する気持ちだけで、後は不確定だし。
でも、私にチャンスがない訳じゃないのだけはハッキリした。
姫条がを好きになるかもしれない事はあるけど、姫条が私を好きにならない理由も無い。
つーまりっ!

「変化なしじゃんかーーーーーーー!」

命短し恋せよ乙女…って昔の人は良い事言うなぁ。



そういや、今頃と葉月って、どんな会話しながら帰ってんだろうね…。










その頃の二人





「今度…」
「何?」
「行ってみるか?二人で…」
「遊園地?」
「ああ…」
「うん…」