◇◆ Autumn -October- ◇◆ 昔の夢を見た。 『ねぇねぇ』 『なに?』 何かを思いついたのか?少女が少年に尋ねる。 『けーちゃんのおたんじょうびっていつ?』 さっき通りかかった親子が、そんな話をしていたからなのだろう。 目を輝かせて答えを待つ少女に 『10がつ16にちだよ』 そう少年は答える。 『!?』 『どうかしたの?』 すると、少女は酷く驚いた顔をすると同時にとても嬉しそうに 『のおたんじょうび、10がつ26にちなんだ〜』 そう答えたのだった。 「26日…か。」 あの後、少女は何か言っていなかっただろうか? 「こんちわ。」 カランカラン、とドアを開けて店に入る。 「いらっしゃいませ〜!あ…珪くん!ご注文は?」 「……いつものヤツ。」 「は〜い!マスター、モカ一つ入りまーす!」 マスターと二言三言会話をする。 「慣れてきたみだいだな、おまえ。」 自然と口から零れた言葉に、照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑う顔に妙にホッとする。 それに気が緩んだせいなのか 「お待たせしました〜」 「なぁ…」 「なぁに?」 「なんでもない…」 「???」 ---何か…。 誕生日に欲しい物あるか?そう言いそうになった。 「いらっしゃいませ〜」 新しい客の来店に、パタパタと入り口へ向かう後姿を見ながら考える事は一つ。 ”けーちゃん、・・・・・・・” 昨日見た幼い頃の夢。あの時、最後には何を言っていただろうか? 大切な事を言っていた気がするのに思い出せない、その事が酷く自分をイラつかせる。 思い出せないのは大したことじゃないからかもしれない、と思いながらも もしかしたら大切な事かもしれない、と思うと余計に気になるばかりで。 ---とりあえずは…。 日曜、出かけてみれば解るかもしれない。 「・・・・・」 正直、こんなに悩むものだと思わなかった。 ショッピングモールに来てもう数時間が過ぎた。 おそらく、その数時間は無駄に過ごしたといった所かもしれない。 よくよく考えてみれば、誰かの誕生日に何かを贈った事があっただろうか? ---ない…な。 それ以前に、誰かに何かを贈ろうと思った事自体なかったかもしれない。 何を基準にどう選べばいいのかも解らない。 「困った…。」 困っている筈なのに、妙に浮き足立っているのが解る。 こそばゆいような、不思議な感覚。 「楽しんでる…のか。」 多分、自分はこの無駄に過ごした数時間を楽しんでいる。 のために何かを選ぼうと頭を悩ませている時間も、 何を選んでいいのか解らずに、ウロウロしている時間すらも。 「難しいな…。」 喜ぶ顔が見たい、と思う。けれど、何を贈ればそれが見れるんだろうか? そんな時、ふと目に付いたのは店先にディスプレイされたある品物。 ピンときた、のかもしれない。 何故かその時、俺にはそれを渡したあいつが喜ぶ顔が浮かんだ。 多少大きい感があったけれど、丁度26日は日曜日だから家に渡しにいけばいい。 「すいません、それください…。」 俺はやっと【初めての贈り物】を決める事が出来た。 撮影が長引いた火曜。 帰ろうとした俺は秀さんに呼び止められた。 「葉月、帰りに寄ってくれってさ」 時間はもう8時半過ぎ。 「何で…」 「そんなの俺が知る訳ないし?」 確かにそうかもしれないけど。 「絶対寄ってけよ?じゃねぇと俺が何されるか…」 そんな事俺の知った事じゃないけれど。 俺は仕方なく、その足で喫茶ALUCARDへ向かう。 「珪くん。あの…これ…」 待っていたんだろうか? 俺よりも1時間程バイトの終わりが早いがそこにいた。 「プレゼント…」 がそこにいる事、プレゼントを手渡そうとしてくれる事に驚いて 「どうして……」 相当動揺していた。 そんな俺にそれは渡されて 「誕生日…だから」 受け取った俺を、不安の入り混じった顔で見てる。 「…サンキュ。」 俺の言葉が合図だったのか?一人で帰るにはもう暗くなっているというのに は逃げるようにして行ってしまった。 ---だから…か。 俺は追いかける事も出来ず、仕方なくその足で約束の場所へ向かった。 そして帰宅して直ぐにがくれたプレゼントの包みを開ける。 「………」 それに俺は声も出なかった…けれど。 大きさの割りにとても軽く柔らかなそれは手触りも良く、 何よりもその色が俺の心を暖かくさせた。 それは、淡い藍色の柔らかな毛並みの中にある、濃い蒼の瞳。 がくれた大きな猫の抱き枕は予想以上に抱き心地が良かった。 ---相当迷惑掛けたかもしれない…。 次、バイトの日に顔を出して一応言うべきだろうあの人に。 突然の俺の訪問に、は驚きを隠せなかったらしくオロオロしていた。 「一体どうしたの?何かあった?」 「ああ…。」 「あの…何があった…んでしょうか」 の事だから、多分とんでもない事を想像しているのかもしれない。 「コレ…」 綺麗に包装された包みを手渡すと、更にオドオドする。 「これ……?」 「……おまえが生まれた日だろ、今日。」 「うっ…うん…」 「わりと楽しいな、プレゼント選ぶのって。」 「いいの?」 「ああ…。」 「あり…がとう…」 俺の渡したプレゼントを大事そうに抱え、は何度も【ありがとう】を繰り返していた。 重なった偶然。俺がの為に選んだプレゼントは…。 ← □ →