03.海を渡るうさぎ…は徒歩も可能な小心者。



蒼い海を渡る一台のバギー。
水上用でもなければ水上用に改造された物でもない、ごく普通の陸上用バギー。
その、ごく普通のバギーを操り海を渡るのは”ホワイトラビット”
”鍛冶屋ラビット”の”ホワイトラビット”は海を渡り海を歩く。










「見えてきた…。」

当てもなく海を渡る事5日。
探していた”レッド・フォース号”らしき海賊船が漸く見えてきた。
そしてそれが幻じゃないと確認出来る距離まで近付き、

「うん、あれだ。10年前より少し大きくなってるけど間違いない…。」

見覚えのある”左目に3本の傷があるドクロの後方に交差した剣”の描かれた海賊旗を目にして私は一筋の涙を流した。

「っこれで干乾びずに済む…。」

2〜3日で見つけられるつもりで、2〜3日分の食料しか持たずに出発した今回のプチ旅行。
ちょっとそこまで出かけてくるね〜的ノリで家を出たもんだから、捜索4日目に突入した時は本気で帰ろうかと思った。
けど、帰らなかったのは理由がある。
満足いく物が漸く出来上がり、やっと”約束”を果たせる…という想いから、私は捜索を続行する事にした。
決して帰る方向が判らなくて帰る事を断念した訳じゃない。
ともかく、やっと発見した”レッド・フォース号”をここで逃す訳にはいかない。

「あんまり近付き過ぎるのは危ないかもしれないし…。」

けれど不用意に近付いて発砲されるのは遠慮したい。

「この辺りに止めて…っと。」

私はバギーのエンジンを止め、後部に取り付けてある碇を下ろしてバギーを降り、
目的地である”レッド・フォース号”へは徒歩で向う事にした ────────── その行動が最も怪しまれる行動とは微塵にも思わずに。





突然甲板に飛び乗ってきた謎のウサギ ────────── の面を着けた私が快く受け入れられる筈もなく、

「赤髪のシャンクスに用がある…。」

”怪しい侵入者”として認識されて一斉に銃口が向けられた恐怖からやや片言で本当に用件しか口に出来なかった。

───── っ撃っちゃだめだから絶対だめだからっ!!

急所を一撃で打ち抜く腕を持った彼らの事だ。
おかしなマネをして発砲されたら最後…って想像するのも怖い。

───── やっぱり来るんじゃなぁったあぁぁぁぁっ…。

今日までの15年間、確かに私は”男”として生きてきたけど性根まで変わった訳じゃない。
私は小心者なのだ誰が何と言おうと小心者だって言ったら小心者なんだからお願いしますその銃を下ろしてもらえませんか…。

「何の用だ?”ホワイトラビット”がわざわざ来たんだそれなりの用件なんだろ?」

っていうか何で私の事”ホワイトラビット”って知ってるんですか!?

「営業…って訳じゃないだろ?」

ある意味営業かもしれないんですけど…って営業っていうか?ちょっと違うっていうか。

「黙ってないで何とか言ったらどうだ?」

怖くて口を開こうにも言葉が出ないんです勘弁してもらえませんか!って言えたらどんなに楽になるだろうか。
とはいえ、これ以上無言で貫き通したら私が貫かれそうな気がしてきた。
私は背に携えてきた剣を抜き、

「試して貰えるだろうか。」

この剣の切れ味を見てもらう意味でそう言って、剣を渡そうとし ────────── ていきなり斬りかかれた。

「手合わせしたいって事だな。イイ度胸だっ!」
「っ!?」

ちょ!そういう意味じゃないってば!
単にこれ手渡すからダイコンか何かで試し切りして切れ味確認してほしいだけなんだってば!!!
って叫ぼうにもシャンクスの攻撃をかわし、受け止めるのが精一杯で

───── もうやだあぁぁぁっ!!

泣きそうになるのを必死で堪えながら、それでも切り刻まれる事だけはなんとか回避したけど。

「流石”ホワイトラビット”腕も相当なもんだ。」

どっかからそんな声が聞えてきた。
相当…ってどう見たって必死で逃げ回ってるだけで、私は自分からは一度だって剣を振り下ろしてはいない。
ひたすら受身で剣を受け止め、かわして逃げてるだけだ ────────── ったけど。

「もういい…。」

これ以上続いたら腕がもげる。
これ以上シャンクスの重い剣を受け止め続けたら肩が抜ける。
これ以上続いたら私の心が粉々になるから取り合えずもう止めませんか?の意味を込めて剣を下ろし

「もう終わりか?こんな程度で満足されてるようじゃオレもまだまだだな…。」

納得しないながらもシャンクスが剣を下ろしてくれた瞬間だった。

「オイオイ…。」

シャンクスの剣が粉々に砕け、それはもう見事にバラバラになった。
つまり、私の剣の強度が証明されたという事になる。

「アンタの目にこの剣はどう映った?」

切り刻まれそうになった事はともかくとして、シャンクスがこの剣を気に入ってくれさえすれば私はここまで来た甲斐がある。

「”鍛冶屋ラビット”の”ホワイトラビット”の作った剣だろう?」

うんうんそうです私が頑張って作った剣です!とコクリ頷けば、昔見た懐かしい笑顔を浮かべ

「いい剣だ。そこいらのボンクラに持たせるには勿体無い位のな…。」

シャンクスは私が最も欲しかった言葉で私の剣を賞賛してくれた。

───── もうすぐお家に帰れるっ!

ホッと胸を撫で下ろし、私は背に携えたままの鞘を取り剣を収めてシャンクスに渡した。

「オレ…にか?」
「これはアンタの為に打った物だ。」
「オレの為…ってどういう事だ?オレは”鍛冶屋ラビット”に剣を発注した覚えはねぇけどな。」
「10年前”約束”した。」
「10年前…約束…ってお前まさか!?」

驚いた表情で私と剣を交互に見やり、おもむろに私の”ウサギの被り物”を剥ぎ取って息を呑んだのはシャンクスだけじゃなくて。

「お前…”ジャック”か!?ルフィの兄貴の!」

ベックマンもラッキー・ルウもヤソップも目を丸くして私を凝視してる。
何でそんなに驚く必要があるのか?は判らない。
けど”約束”で私の事を思い出して確認の為に被り物を剥ぎ取ったんだったらまぁいいか。
シャンクスは私の事も”約束”した事も覚えててくれたんだから。

「驚いたな…まさかジャックが”ホワイトラビット”だったとはなぁ。」
「用は済んだ、帰る…。」

これで私の心にあったシコリは消えた。
”約束”を果たせた事で私は胸に痞えていたシコリをやっと取り除く事が出来た ────────── から。
とっとと帰ろうっていうか帰りたい。

「………………?」
「10年振りに顔出したんだ、簡単に帰せる訳ねぇだろ?」
「お頭の言う通りだな、折角来たんだゆっくりしていけばいいだろ。」

なのに私の願いは叶う事なく却下され、帰ろうにも腕を捕まれ離して貰えず結局留まる事を承知するまで解放される事はなかった。

「バギーが………。」
「船は停泊してるから大丈夫だ。」

そして大切なバギーは置いてきたままあの場所での放置が決定した。

───── お水だけ貰って帰るつもりだったのに………。




(10年前の”約束”は『アンタを護るモノを作る』  名前:ジャック/理由:海賊=ジャック・スパロウ そんな理由から )
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2010.05.23