04.うさぎの仕事…はパン職人!? 目的を果たし、お水だけ頂いて帰るつもりだった私の予定は大幅に狂ってしまった。 先ず、再会の宴だと3日3晩夜通しで皆で大騒ぎし、4日目は三日酔いから身動きが取れず寝て過ごし、 結局私が解放されたのは5日目の事だった。 それでも解放に至るまでに半日を要し、説得に説得を重ねて別れの瞬間を得た頃には太陽は地平線に沈みかけていて 「いつでも来いよ!」 「……………判った。」 「なぁジャック、じきに暗くなるんだ帰るのは明日にすれ…。」 「…………また来る。」 「……………そうか。」 何が何でも今すぐ帰らなければ帰してもらえない気がした。 「本当に遠慮せずいつでも来い。」 「判ってる…。」 「土産はいらねぇからな。」 「………美味いワインでも持ってくる。」 「だからいらねぇよワインも何も。ただ顔を見せに来てくれりゃいい。」 「…………判った。」 「けどジャック…見てみろもう薄暗くなってきたぞ?」 何でそんなに私を引き止めたいのか?が判らない。 「それじゃ…行く。」 「夜の海は危ねぇんだいくら”ホワイトラビット”とはいえ…。」 「シャンクス…。」 「何だどうした?」 「必ずまた来るからいい加減手を離してくれ。」 それどころかこれ以上暗くなったらホントに帰れなくなる。 「お頭、いい加減諦めたらどうだ?ジャックが頑固なのは昔からだ。」 そうですそうなんですよベックマンの言う通りだからいい加減手を離して欲しい。 「また…って何時だ?」 「……………。」 「お頭…………。」 「だってそうだろ?10年振りに懐かしい奴に逢ってたかが五日で別れるのは寂しいだろ。」 「だからって次って何時だ?ってガキみたいにダダ捏ねるのはどうかと思う…。」 「お頭、ジャックの言う通りだぜ?嫌われたくなけりゃ今すぐ手を離した方がいいんじゃねぇか?」 ベックマンの忠告が功を奏したのかシャンクスはやっと私の手を離してくれた。 シャンクスってこんなだったっけ? 確かにフーシャ村で過ごした日々で構い倒された記憶はあるけど。 「遠慮せずに必ずまた来いよ?」 その、構い倒された日々のように私の頭を撫でるシャンクスは私が頷くとやっと納得してくれたのか 「気を付けて行けよ。」 漸く私を解放してくれたのだったどうせなら後2時間早く解放してくれればよかったのに…。 こうして私はレッド・フォース号を後にし、再びバギーに跨り海を渡って ────────── 渡ってそして。 「迷子…………。」 頭上で爛々と輝く月に水面を照らされる中で途方に暮れるのだった。 ───── バギーにコンパス取り付けた方がいいよねこれ………。 結局、私がローグタウンに戻れたのはレッド・フォース号を後にしてから4日後の事だった。 「埃被ってるし。」 締めっぱなしの店の品は薄っすら埃を纏い、2週間も店を閉めていたツケはポストの中に貯まっていた。 「たかが2週間されど2週間…か。」 近所の奥さん海賊海軍からの依頼書がポストの口から溢れてるのを見た瞬間、燃やしてやろうかとも思ったけど お客様は神様、この依頼書=生活費なのだからそこは我慢して。 「とりあえず優先はご近所さんの分からだよね。」 海賊海軍の分は後回しにして(だってこっちから連絡取れないし)仕事に取り掛かる事にした。 店の地下にある鍛冶場で”鍛冶屋ラビット”の”ホワイトラビット”としての久しぶりの仕事。 作業といっても大した事をする訳じゃない。 普通の鍛冶屋のように鉄を溶かして型に流し込み、それを熱し冷やしながら打つ ────────── という方法とは違う 手法で私は店の品を作っていた。 地下には鉄を溶かす釜もなければそれらしい物は何もない。 あるのは私が手作りした石釜があるだけ。 「しかし便利な能力だよねこれって…。」 鼻歌を口ずさみながら水と卵を混ぜた液体にある液体を入れ、 そこに小麦粉を混ぜてコネコネ捏ね続けるそれは何処からどう見てもただの生地作りの作業。 けれど私はこうして包丁を作り剣を作る。 私が作った生地を私が作った石釜で焼けば何故かそれは刃物に変わる。 それに初めて気付いたのはまだ幼い頃、弟達にパンを焼いた時だった。 「あの時は死ぬほどびっくりしたわ…。」 焼き上がりの匂いがキッチンに漂い始め、出来上がり状態に期待しつつオーブンを開けたら 何故かこんがり焼けたピカピカのフォークとナイフがそこにあった。 「今となっては専門職に就けたからいいけどさ。」 それが私自身の能力だと気付いた最初であり、私の身の振り方が決まった時でもある。 だから私は自分の能力を活かして生計を立てているけど 「焼き上がるまで何が出来るか判らないのはちょっと…。」 もう少し自分の能力と上手く付き合う方法を模索しなければ…! (上手に焼けました〜!な今回は依頼通りの牛刀が仕上がったぞ!) -------------------- 2010.06.28 ← □ →