03.結局、欲しいものは奪い取れ…と諭される。



さて、ぐるぐる巻きにされた私達三人は案の定屯所へと連行され、空き部屋の一室に放り込まれた。
当然縄が解かれる事はなく、そんな状態じゃ何をしようにもどうしようもなく

「若様、とりあえず寝ましょう。」
「えっ!?」
「そうですね、今は寝る以外することもなさそうですし。」
「あ、あのっ…。」
「明日にれば尋問が始まるでしょう。今は少しでも身体を休めた方が。」
「解りました。では助さん格さん…おやすみなさい。」
「「お休みなさいませ若様。」」

芋虫か蓑虫のように身体をくねらせて身を寄せ合い寝る事にした建前は。
そして千鶴ちゃんが完全に寝たのを確認し

「起きてる?」
「勿論よ。」

が起きている事を確認して、にだけ聞えるよう私の知る全てを説明した。
ここがどういう場所で、どういう状況で、これからどうなるのか?を。






「 ───── だからあんなに輝いてたのね。」
「まぁね。だって ───── 。」

そして一通り説明し終わり、一息ついた私を待っていたのはの質問攻めという尋問だ。
核心をいきなり突くような事はせず、外堀からゆっくりと攻め入ってくる。

「けれど…どうして最初に解らなかったの?」
「そんなヤボな事聞かないでくれない?解るでしょ。」
「オープニング前の名前入力で自分の名前を入力してるから千鶴ちゃんの名前を忘れてしまっていたのね。」
「 ────────── 悪い?」

普通なら最初に千鶴ちゃんの名前を聞いて気付くべきだった現状を、気付けなかったのは私の所為ではない。

「なら、彼等と顔を合わせるまで思い出せなかったのは何故?」
「だから、何度もヤボな事聞かないでもらえる?」
「既読スキップをし続けた結果…という事なのね。」
「 ────────── 当然でしょ。」

何度も何度も同じオープニングばっかり見せられる事が苦痛に感じる私からすれば誰が何と言おうと既読スキップは神だ。

「それで、千鶴ちゃんはつまり…。」
「ええ、千鶴ちゃんは公式ヒロイン、ユーザーの敵よ。」

但し、それは私個人の見解であって全てのユーザーの意見ではない。
公式ヒロイン名を自分の名前に変えてPLAYしている時点でその瞬間からヒロインは私だ。
それが開発スタッフの意図する所だろうし私は自分の行いが恥ずかしい行為だとは思ってない。
たとえ目の前のが引き気味であったとしても、だ。
それが私のやり方、決して譲れない私なりの楽しみ方なのだ悪いかっ!
一年半前に成人式を終えた女が現実の男よりも二次元に夢を求めて何処が悪いっ!?

「言いたいことは大体解るけれど、少し落ち着いた方がいいと思うの。私は責めてる訳じゃないんだから。」
「そりゃそうでしょ。が私を責める理由はこれっぽっちも無いし?第一私の事をどうこう言えた立場じゃないんだから。」

マンガやアニメのキャラクターにマジ恋出来るにだけは言われたくない。

「それよりも、よ?肝心なのはここからよ。」
「何が。」
「何が…って本気で言っているの?」
「はぁ?どういう意味よそれ。」
「ったら本当にオバカさんになってしまったのかしら?」

コノヤロウ、喧嘩売ってるのか!?

「オバカって何よ。」
「だってそうでしょう?この先千鶴ちゃんの発言や行動で全てが決まってしまうのでしょう?」
「それが醍醐味なんじゃないの!いかにミスせず好感度を上げてスムーズにEDに辿り着くか!」
「だ・か・ら!肝心なんじゃないの。いい?この先千鶴ちゃんの行動全てがの大好きな殿方とのEDへまっしぐらだとしたら。」
「!!!!!!!」
「千鶴ちゃんとその方とのあれこれを…。」
「イヤァァァァァァァァァァ!!!」
「手を取り見つめあう二人。」
「ヤメテっ!」
「ゆっくりと近付く二人の唇。」
「ヤァァァメェェェテェェェェェェェェっ!」
「今までのここでの全ての相手は、貴女だったかもしれない。けれどここでの貴女は所詮その他A。」
「それ以上の事を想像させないでっ!」

画面の向こうの私が私の姿で無くても感情移入出来たのは名前変換という機能があってこそ出来る技。
けれど今の私にそんな技は無い。おのれ開発め。

「ならば選びなさい決断しなさい!」
「…?」
「公式ヒロインなど私達の敵ではないわ。まして千鶴ちゃんはまだチチ臭い小娘。」
「(それはちょっと言いすぎなんじゃ…。)」
「蹴落としておやりなさいヒロインの座から!そしてヒロインに成り上がるのよっ!」
「 ────────── は?」
「設定画面も既読スキップも無い今、頼れるのは己の力のみ。」
「サン?」
「プレイヤーである貴女が此処に居るというのなら!内から変えてしまえばいい事。」
「ア、アノ…。」
「どうせ貴女の事だからシナリオ音読出来る程にやり込んでいるんでしょう?」
「(否定できん…。)」
「ならばっ!それを武器に戦うのよこの世界とっ!」
「(戦うってアンタ…。)」
「私達自体この先どうなるか解ったもんじゃないんだからやりたい事をやりたい様にやればいいんじゃなくて?」
「(それが本音だな…。)」
「第一ココに来る羽目になったお爺様がくれたかんざし、無いじゃない?」
「あ、そういえばそうね。」
「あれが鍵だったとしたら…。」
「そりゃどうなるかなんか想像も付かないわ、流石に。」
「でしょう?」

それ以前に、此処に来た理由すらハッキリしてないのが事実。
過去の江戸にタイムスリップならともかく、ゲームの中に入り込んだとか冷静に考えたらオイシイ事この上ない!?

「厚みの無い平面でしか拝んだ事がない方が立体的に拝めるチャンスよ?」
「っそうかもしれない…わ。」
「恋愛EDへ辿り着けないまま命を落としたとしても。」
「この身体に魂にその感触を刻めれば本望だわ。寧ろそれで満足出来るわ私。」

いやほんとに視覚でしか拝めない相手がこの手で触れられるならそれだけでも十分だわ。
だってお触りだけで満足しないと下手に度が過ぎたら私が持たん。
己の鼻血の海で平泳ぎしたくないし、そこは節度を忘れたくは無い人として。

「ちっぽけな野望ね。」
「身の程を知っていると言ってくれない?」
「ともかく、よ?どうなるか解ったもんじゃない今後を考えたら悔いは残すべきではないのよ。」
「でも無事EDを迎えたとして…。」
「何か問題があるのかしら?」
「流石に標的を変えて再びPLAYは出来ないわよね。」
「やる気満々じゃないの。」
「エヘっ☆」

まぁ、現実的に目の前を行くイケメンよりも二次元萌えを選べる時点で老い先も短いだろう。
挙句こんな状況に放り込まれたんじゃ帰る方法が云々どころか冗談抜きでの言う通り、
何かに巻き込まれて明日にもコロっとあの世行き、なんて事にならないとも限らない。
本能的に命の危険があるとは思えないけれど、無いと言い切れないのも事実だ。
なら、それこその言葉通り本能の赴くままに身を任せてもいいかもしれない。と思う。

「次は私に優しい世界に行ってみたいわ…。」
「ちょ!まだ始まったばっかだから!不吉な事言わないで!!」
「で?どなたなの?が想いを寄せる方は?」
「それは…っていうかどうせならも楽しめばいいじゃない。忘れてたけど眼鏡男子以外にも居たわ、の好みのタイプが。」
「そうなの?」
「ええ、ちー様っていう鬼が。」
「鬼…というと鬼畜という意味の鬼かしら?」
「や、リアル鬼さん。」
「そうなの?ちょっと残念だわ。」

何か怪しい笑顔浮かべて楽しそうなさん。鬼=鬼畜って一体どんな変換したらそうなるのか?はだから良しとして。

「で?のお目当ての方の名前は?」
「それは…明日見れば解ると思うわ。なら一目で誰か理解出来るはずだから。」
「顔が見目麗しいのは当然、その上で表情も声も仕草も無駄にエロい方を探せばいいのね?」

チッ…は解り過ぎてるから嫌なのよ。
こうも的確に私の好みを言われたら恥ずかしいどころか嬉しいじゃないの。

「じゃ、寝ましょうか。もうすぐ朝だけれど。」
「そうね、もう外は明るいけど寝ないとマズイわね。」

と、ひとまず話しも纏まった所で私達は身体の疲れを癒すべく寝る事にした。
それが、起床まで後2時間の出来事 ────────── 。










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2010.02.12