04.自己記録を更新した瞬間。



私達が目を覚まして暫くした後、ついにその時がやってきた。

「起きたかい?」

そう言って入ってきた井上さんは千鶴ちゃん、、私の順に身体の自由を拘束してる縄を解いてくれた。
手を縛る縄はそのままにして。
この後私達は幹部達の待つ道場へと連行され、今後の身の振り方の審判をされる事になるのだが、
今はともかく身体に自由が戻った事の方が有り難かった。
身体に自由が戻った事は余裕となり、目覚めてから緊張しっぱなしだった千鶴ちゃんも多少緊張は抜けたようだし、
そんな千鶴ちゃんの様子にも表情を柔らかくしている。

と、有り難がったのはほんの数秒。私は井上さんを、井上さん本人には気付かれないよう観察する事に没頭していた。
単独ルートに突入するまでのヒロインだった私に対して、とても親切丁寧な対応をしてくれた井上さん。

───── 惜しい。本っ当に………惜しい。

外見があと20歳若かったらロックオン可能だったのに。
史実上では鬼の土方さんと6つしか変わらないらしいが、もしそれがここに反映してたとしたら(してないっぽいけど)
どんだけ苦労人なんだ井上さんてのは!!と、何度思った事だろうか。
性格としては満点なんだからビジュアルに力を入れて攻略ルートに入れれば絶対私は攻略しただろう ────────── って
朝っぱらから自分のご意見ご希望等を述べてる場合じゃなかった。

「(、朝から懸想するのも結構だけどもう少し緊張感を持った方がいいと思うの人として。)」
「(…………悪かったわよ。)」

流石ににはバレバレだったんだろう釘を刺された。
懸想するのに場所も時間も関係ねーよ!と、普段なら言ってただろうけど確かに今はそれどころじゃない。
だって井上さん以上に魅力的で煌びやかな面々との遭遇がこの先にあるのだ。

「じゃあ付いて来てくれるかい?」
「……………はい。」
「「解りました。」」

促す井上さんを先頭に、私達はついに禁断の扉を開く運命の場所へ向った ────────── のだが。

「(予想外の事態だわ…。)」
「(何?どうかしたの?。)」
「(貴女好みの顔が見目麗しいのは当然その上で表情も声も仕草も無駄にエロい方が数名居るんだけど。)」

───── これはどういう意味かしら?

幹部の顔を見た瞬間真顔で聞かれてもね、私にどうしろと!?










と、の突っ込みに対する回答は一先ず後回しにして、ついに尋問が始まった。
攻略対象者が一人づつ一言づつ、敵意の含まれた言葉を私達に向けて発していく。
そんな容赦ない言葉の攻撃に、私との間に座る千鶴ちゃんは俯いたまま膝上に置いて握り締めた手を見つめていた。
側に居るから判る、萎縮した千鶴ちゃんは確かに震えていた。
もしかしたら涙ぐんでるかもしれない。

───── そりゃ泣きたくもなるわ。

ただその場に居合わせたというだけで、見目麗しくとも自分よりも明らかに大人の男に取り囲まれ、
あからさまにトゲを含んだ言葉をぶつけられたら尚の事。
いくら千鶴ちゃんが公式ヒロインで、私のライバルになるかもしれないとしてもそれはそれこれはこれ。
年下の女の子がこんな風に理不尽な目に合わされて放っておける程、私もも腐ってはいない。

「(大丈夫。私達が居るから…ね?)」
「(そうよ?私達は何も悪い事はしてないんですもの。)」

千鶴ちゃんだけに聞えるよう小さく呟けば、俯いたままコクリと頷く千鶴ちゃん。

大体、単独ルートに突入するまでの共通ルートでの攻略対象者の態度は正直なっとらん!
いくら時代背景があるとはいえ人々の為とはいえ、どっからどうみたって男装してるだけの女の子に対する
態度じゃねーよ!それでもお前ら男か!ってなもんで。
つれない態度が堪んないのよね〜…って言えるのは所詮スチル上だけで実際その立場に立たされた今、
湧き上がるのは理不尽な仕打ちに対する怒りともいえる感情だった。

だからかもしれない。私は無意識の内に、冷やかしにも似た…けれどあからさまに敵意のある大人気ない言葉を発した彼等を
一人づつゆっくりと、向けられた敵意を返すように挑むように睨み返し ──────────────────── てるつもりだったのに。

「(……………。)」
「(何……………。)」
「(その見るに耐えないだらしなく脂下がったニヤケ顔、どうにかならないの?)」

───── 何故バレた!?



自分の行動をどんなに正当化しようとしても、無意識の行動には勝てないと悟った瞬間までのタイムは1分57秒…。










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2010.02.20