05.自己記録を更新した瞬間。(別視点)



───── いい眼してんじゃねぇか。

それが、俺が見た最初の印象だった。





昨夜、血に狂っちまった隊士を始末する時起きた不祥事。
狂っちまったもんはどうしようもなくそうなっちまった隊士の末路は”死”あるのみ。
それはいい、それが新撰組のやり方で俺たちも納得してるやり方だから仕方ねぇんだが。
運の悪い奴ってのはどんな場面にも居るもんで、今回運悪くその場に居合わせちまった奴等が
隊士の死体と共に屯所へ連れて戻られたらしい事を聞かされた。
朝にもその運の無い奴等の処遇をどうするか?決める事になったんだが。

───── 気が乗らねぇな…。

逃げられねぇように縛られたまま俺たちの前に連れて来られた運の無い奴等の内の一人はどう見ても女だった。
まぁ夜にうろついてる方が悪いっちゃ悪いんだし相手が女子供だろうが結果は一つ。
知られる訳にはいかねぇ秘密を知った相手は始末するしかねぇ。
が、どうにも釈然としないのも事実。

───── どうしたもんか。

とはいえ隊の掟は絶対だ。
処遇が”処分”に決まったら最後始末する事に異論を唱えるつもりは毛頭ねぇが完全に萎縮しちまってる相手を
いつまでも嬲るように晒しモンにして楽しい訳でもない ────────── と、視線を女から外した瞬間
突き刺さるような視線に気付いた。

───── 違ぇ…な。

突き刺さる…なんて生易しいもんじゃねぇ。射殺さんばかりの殺気に満ちた鋭い視線だ。
それが女の左隣に座る野郎から間違いなく俺に真っ直ぐ向けられていた。
怯む事もなく恐れる事もなく、俺たちの言葉に含まれる哀れみや情けなど不要だと云わんばかりの
どこまでも真っ直ぐで挑んでくるような視線。

それに気付いたのはその視線を真っ向から受ける俺だけじゃなかったらしい。

「(左之。お前気付いてるか?)」
「(ああ…ってお前も気付いたか。)」

横に腰を据える新八がどこか楽しげに俺の耳元で囁きやがった。

「(久しぶりに見る眼だなありゃ。)」
「(だな。いい眼してやがるじゃねぇか…。)」

揺ぎなど無い、確固たる強い意思を持った眼を久しぶりに見た気がする。
俺たちもあんな眼をしていたんだろう…と昔に想いを馳せ、ふと新八を見ればあの視線に気付いた時以上に
楽しげな様子で。

───── 殺り合ってみてぇな。

突き刺さるような殺気を向けられる中で、俺はふとそんな事を感じていた ────────── 。









(こうやって始まった勘違い。左之視点)
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2010.02.20