08.二転三転していく状況の先にあったのは理不尽な仕返し。



愛キャッチグラフィックを目撃した直後、私とは素晴らしいグラフィックの出来にウットリ見入ってしまったが。
おっとそれどころじゃない、目下正座中の千鶴ちゃんと左之さんが対峙してるんだった見つめ合って。

───── 出遅れているわよ?。
───── っ解ってるわよ!仕方ないじゃない…。

そう、仕方ないのだ。私は所詮ハード本体っていい加減そのネタから離れないと。

潔くも覚悟を決めた千鶴ちゃんを見つめる左之さんの眼差しに見とれてる場合でもなければ
見つめられてる千鶴ちゃんを羨ましがってる場合じゃない。

───── 解ってるわね?。
───── ええ、もちろんよ?

に素早くアイコンタクトして意思の疎通を図った後、私達は正座する千鶴ちゃんと彼女を見下ろす四人の間に立ちはだかる。
もちろん千鶴ちゃんを彼等がどうこうすると思っていなければ、実際彼等はここで千鶴ちゃんに対して何か行動を起こす訳じゃない。
ただ、私達はあくまでも彼女を守る立場。
設定を忠実に守る事はつまり私達の存在をこの場に存在付ける意味もある。
要するにそれが一番妥当であり取るべき当たり前の行動だから私達は動いた。
目の前に居る彼等から千鶴ちゃんを守る為、威嚇する舐めまわすような鋭い視線を彼等に向けながら。

「左之、そこまでにしておけ。こいつの処分はまだ決定されてない。それに…。」

そして、私達とほぼ同時に動いたのがはじめ君だった。
”それに…”の後、何か言いたそうな表情で私達を見るはじめ君のその表情が非常に気に掛かるけれど、
そこで台詞を止めるのはどうかと思うんだよねって突っ込む訳にはいかない。

「(まるで子猫ちゃんね。)」

先ず、突っ込むのははじめ君じゃなくて耳元でそう私に囁いたに対して…の方が先だろう。

「(、アンタここでそれを言う!?この状況でっ!)」

納得はする。何なら私も諸手を上げて同意したいが状況が状況だ。
刀に手を掛けていた左之さんを制止しながら再び私達を見るはじめ君の事はこの際ちょっと置いといて。

「ま、こんな度胸のある女みすみす殺しちまうのはもったいないし?」
「な、なんで知ってるんですか!?」

唇の端に浮かべた笑みを深くしながら千鶴ちゃんを見る左之さんに見とれてる場合でもなくて。

「ちょっと待て左之。俺の耳には今「女」とか聞えたんだが。」
「カマかけてみたんだがアタリだったな。いや、こいつ見るからに女っぽいだろ?」

ネタバレキター!って言ってる場合でもなければ女のカテゴリーから私とが除外されてる事に打ちひしがれてる場合でもない。
ここからが勝負、私達はこの後再び幹部連中と顔を付き合わせる事になるのだ。
千鶴ちゃんに全てを任せて私達の居場所を確保するのもいいけど

───── 任せっぱなしってのもね…。

立場を設定した以上、私達は自分達が存在する意味を明確にしなければならない。
口を挟もうが挟ままいが状況は変わらないというのならなおさらだ。
ならば取る道は一つ、私は私の信じる道を選び貫くのみ。

「(だから言ったでしょ?引っ繰り返せない状況を引っ繰り返すのもまた一興…って。)」
「(何でこのタイミングでそれを言うかなアンタは…。)」

いやホント、アンタは一体何をどうしたいの…。

「何で男の格好してるとかその辺の話し、オレらに詳しく聞かせてくれよ。」

と、ともかく平ちゃんの台詞に一同納得し?再び道場に連行され幹部達と対峙する事になる ────────── 。









そして早速始まった尋問。
先ず先制打を打ったのは”女”である事を暴露した千鶴ちゃんを含むこちら側。

「美人さんだとは思っていたんだがまさか本当に女性だったとはな…。」
「女だって聞いてから見ると女にしか見えなくなってくるんだよなぁ。」
「しかし女の子を一晩縄で縛っておくとは悪いことしたねぇ。」

近藤さんも平ちゃんも井上さんも素直に納得してしみじみ言ってくれるがそんな簡単に他人信用しちゃいかんだろ。

───── 男って生き物は何時の時代も女に甘いわね。

ほらみろ!がフフンって鼻で笑ってバカにしてんじゃない!

「女だ女だって言うが別に証拠は無いんだろ?」
「しょ、証拠と言われても…」
「証拠も何も一目瞭然だろうが。何なら脱がせてみるか?」
「そ、それは…」

───── 慎重過ぎる男は無粋ね。公衆の面前で脱がせてみるか?なんて平気で言える口はどの口かしら。

どの口ってそりゃあの美味しそうな唇…ってそうじゃない!そうじゃない私!
左之さんが絡んだ台詞に一々反応してたら過剰反応が過剰を越える。
ドを越えたらレ?ってだからそうじゃない、私。

「男だろうが女だろうが性別の違いは生かす理由にならねぇよ。」

至極真っ当な土方さんの台詞が漸く私を覚醒に導いてくれる。
が、真っ当なのは新撰組としての立場からのものであって一般人全般に当て嵌まる訳じゃない。
彼等の事情は察せても、到底理解出来る事じゃない。

「話も聞かず問答無用で処分ですか?流石は新選組…といった感じですね。」
「…………何?」

本当に知らないって怖い。
それに、何?って聞き返してる暇があったら私の台詞を深読みしようよ土方さん。
おまけに私の台詞に一斉に突き刺さるような視線の矢が飛んでくるし? 怖 い ん で す け ど !

「処分も結構ですが…処分した後に貴方方の知らない事実が露呈した場合困るのはそちらだという事はお忘れなきよう。」
「どういう意味だそりゃ?」
「なるほど確かに助三郎の言う通りです。皆さんはご存知ないようですが知ろうとしない事は罪だという事ですよ。」

流石は。
私の云わんとする事を的確に理解して援護してくれる。

「私共はただ偶然あの場に居合わせた運の無い者。」
「事情を聞かれぬまま処分されても運が無かっただけの事。」
「けれど事情を聞かなかったのはそちらの勝手で私共に非は一切ない。」
「偶然というものは案外近くに転がっている物なんですよ?知らなかったで済まされない事もある。」
「お前ら一体何が言いたいんだ。何を知っている?」
「私共は何も知りません。けれど貴方方が大義の為に私共を処分しようとしている事は知っております。」
「そして貴方方は私共を知ろうとしないまま処分しようとしている事も知っております。」

これだけ遠回しに言葉並べればバカでもない限り躊躇するだろう。
そうさせる為にワザと遠回しに言ってるんだから。

「ま、まぁ君達も少し落ち着け。判断するためにも話を聞こうじゃないか!なぁ皆。」

だから近藤さんてばそんな簡単に他人信用しちゃいかんだろ?って何度言わせれば…。





「私は雪村千鶴と言います。」

千鶴ちゃんは静かに口を開いた。
ここまでの事情を順序立てて説明するその表情は後ろに座る私達には見えないけど
おそらくは強張ってるに違いない。この説明次第で私達の今後が決まってしまうのだから余計だろう ───── そして。
慎重に言葉を選んで説明をする千鶴ちゃんの口からあの親父の名が出た瞬間空気が一変する。

「父様は雪村綱道という蘭方医で………。」
「何だと!?」
「え…?」
「これはこれは…まさか綱道氏のご息女とはね。」
「父様を、知っているんですか…?」
「綱道氏の行方は現在、新撰組で調査している。」
「新選組が父様のことを!?」
「あ、勘違いしないでね。僕たちは綱道さんを狙ってるわけじゃないから。」
「あ………はい。」
「同じ幕府側の協力者なんだけど…実は彼、ちょっと前から行方知れずでさ。」
「幕府をよく思わない者たちが綱道氏に目をつけた可能性が高い。」
「!!!!!」

───── 滑稽ね。これでもし事情を聞かずに処分していたらどうなっていたのかしら?
───── 絶対それはないけど?
───── もしも…の話よ。もし処分した後にこの事実を知ったら彼等はどう責任を取るつもりだったのかしら。

の言う事にも一理ある。
ストーリー上この時点でBADENDになるような”問答無用に処分”は有り得ない。
けれどゲーム上という状況が無い状態での今があったとしたらどうなっていただろうか?

───── 内心助かったと思ってるんじゃなくて?彼等全員。
───── かもね。間違って処分しちゃいました!で済む問題じゃないしね。

事実、土方さんの私達を見る目が変わっている。
探るような視線が相当訝しんでるって悪化してないこれ!?

「あの蘭方医の娘となりゃ殺しちまうわけにもいかねぇよな。」

表情には”そういう事か…”ってのがありありと見えた。
あれ?完全に私とは怪しまれてる…?

「昨夜の件は忘れるって言うんなら、父親が見つかるまで保護してやる。」
「君の父上を見つけるためならば、我等新選組は協力は惜しまんとも!」
「あ、ありがとうございます!」
「それよりそっちの二人の事だが…。」
「助さんと格さんですか?」
「ああ。そいつ等は一体…。」

けどまぁ怪しまれても仕方ないっちゃ仕方ない。
余りにも含みの有り過ぎる発言したんだからそうなるのは解ってた事だし、怪しまれたところで今のトコ私達が困る事は無い訳だし。

「私は助三郎と申します。隣に座る者は格之進と申しまして…。」
「私共は千鶴の幼馴染で彼女の父上である雪村先生には幼い頃大変お世話になりました。
 そんな中千鶴が便りの無い先生を心配し女一人で旅に出ると言い出しました故心配の余り
 強引に二人で付き添って参った次第。いわば用心棒のようなモノでございます。」

あれ?私の記憶が間違ってなかったら私達設定って
代々雪村家に仕える奉公人の息子で旦那様を探す旅に出る千鶴ちゃんのお供じゃなかったっけか。

「仕事は何をしている?」
「私は廻漕問屋の番頭。助三郎は縮緬問屋の番頭をしております。」

W番頭か。番頭の立場ってどんなか知らないけど簡単に長期休暇取れるもんなのかな…。

「そうか。つまり刀の扱いには不慣れという事だな?」
「はい。ご覧の通りこの脇差も二束三文の模造刀でございます。」

この際番頭さんには長期休暇アリって事にして、の機転のお陰で戦闘員からは外れたかもしれない。
千鶴ちゃんは小姓の位置に据えられるからいい。
けど状況から察すると私達は”新撰組の新人見習い隊士”とか危険な位置に持ってかれそうだ。
ひ弱な現代人代表な私達に戦えって言われても困るし、番頭さんなら戦力外通告は間違いないだろう。

「隊士として扱うのもまた問題ですし、彼女の処遇は少し考えなければなりませんね。」
「なら、誰かの小姓にすりゃいいだろ?近藤さんとか山南さんとか……。」
「やだなあ土方さん。そういうときは言いだしっぺが責任取らなくちゃ。」
「ああ、トシのそばなら安心だ!」
「そういう事で土方君。彼女の事よろしくお願いしますね。で、彼等ですが…。」
「そいつらは新選組の新人見習い隊士で十分だろ。オイ土方何て事言い出すんだお前それ仕返しか…?









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2010.03.13