11.天と地と。(左之視点)



屯所に三人の居候が住み着いてから一週間。
千鶴は女である事を隠し通す事を条件の一つとされ、戸惑いながらもそれなりに生活してる。

───── 父親を探したい一心からなのかもしんねぇな…。

比較的大人しい千鶴は誰に迷惑を掛ける事も、勝手に出歩くような真似もせず大人しいもんで
正体を知らない隊士達に”女”である事を気付かれないよう距離を置く様子は健気さすら感じるが。

───── 意外だったのはあいつ等か…。

あの”鬼”と称される土方さんに正面きって喧嘩を売った二人組”助三郎”と”格之進”が思いのほか大人しい事が意外だった。





「新八はどう思う?」
「何がだ?」
「あの二人…やけに大人しくねぇか?」

見習い隊士という立場に置かれて数日、助三郎も格之進も周りといざこざを起こす訳でもなく、
それどころか他の隊士達にあっという間に馴染み、上手くやっていた。
俺としちゃあもうちょっと何かあってもいいんじゃねぇか?って遠巻きに様子を伺ってたんだが。

「あいつ等…特に助三郎の方だけどよ?真面目だぜ結構。」
「どういう事だ?」

新八の言う”真面目”の意味がさっぱり判らねぇし、

「こないだ偶然見かけたんだけどよ、朝早くから稽古してたぜ?」
「二人共か?」
「いや、俺が見たときは助三郎だけだったけどな。」

あの二人に対して苦手意識が沸いちまってるから新八の言う事が素直に受け入れられなかった。
江戸で番頭してたような奴等だ、頭はいいに決まってる。
俺は、頭の切れが口の達者な山南さんのような人が苦手で、あの二人は間違いなくその部類で。
新八もそういう奴は苦手だった筈が

「まぁ最初の印象があれだったからかもしんねぇけど話してみりゃ結構気さくだったぜ?」
「お前あいつ等と話ししたのか!?」
「何だよ左之…お前まだあいつ等と話した事ねぇのか?」
「………ねぇよ。」

新八があいつ等…助三郎をそんな風に言う事に驚いちまった。

「気さくって一体何話したんだ?」
「大した話じゃねぇぞ?随分朝早くからやってんだなぁ…って言ったら。」
「何て返してきやがったんだ?」
「『見習い隊士として置いて頂いている以上、せめて皆さんの迷惑にならないように…』とか何とか言ってたっけな。」
「へぇ…。」
「まぁあの時の事考えりゃ迷惑になるとは思えねぇけどな。」
「そりゃそうだ。」
「左之も一回話してみりゃ判るぜ?」
「機会がありゃ話してみるさ。」

そして、その機会は直ぐに訪れる事になる ────────── 。





土方さんが留守にしてる今日が絶好の機会。
俺と新八と平助で朝の内に屯所を出て島原に行く事に決め、待ち合わせ場所の玄関に向ったんだが。

「 ────────── あのっ!」

平助は今だ現れず、その代わりに千鶴が現れた。
助三郎と格之進を伴って。

「私も一緒に連れて行ってもらえませんか!?」
「そりゃ別に構わねぇけど・・・・お前は楽しくないんじゃねぇかな。」
「つ、連れて行けるか馬鹿!勝手に許可してんじゃねぇよ!!!」

千鶴の台詞に新八は慌てまくって焦りまくってるが俺としちゃあ千鶴の後ろに控えてる二人が気になって仕方なかった。

『左之も一回話してみりゃ判るぜ?』

脳裏に浮かぶ新八の言った言葉。
千鶴と新八の会話に口を挟むでもなく黙って立ってる二人の様子に俺はその言葉を思い出し

───── 話してみる…か?

「ん?ああ。外出禁止なんだっけな、お前。見張りなしで部屋から出ていいのか?」
「うっ…。」
「………。」
「……………………。」

口を開いたものの、何をどう話し掛ければいいか?が全く思い浮かばず気付けば千鶴に話しかけていた。

「だから、ええと…原田さん達はどこに行くんですか?」
「誤魔化すなよ。ま、いいけどな。俺らはこれから島原に行くとこだけど?」
「島原?」
「有名な花町じゃないですか!?」
「女の子に向って島原に行くとかわざわざ本当のこと言うなよ…。」
「嘘吐けねぇんだよ俺。知ってんだろ?花町に繰り出すくらい別にやましくもねぇし。」
「おまえは酒が目当てだろうから後ろめたくも何ともねぇんだろうよ!」
「………永倉さんはお酒が目当てじゃないんですか?」

当然、切欠を失った俺は話し掛けられないまま、助三郎も格之進も会話に割り込んでくる事もないまま
平助を待ちながら他愛の無い会話を三人で続けるものだと思っていた ────────── が。

「千鶴、野暮は言わない方がいい。」
「そうですよ?男性には男性の生理現象があるのですから。」
「えっ!?」

───── えっ!?

「格之進の言う通りだ。千鶴には理解し難いだろうが男特有の欲求を解消する為には色々やらなければならない事がある。」
「助三郎の言う通りですよ?それが例え朝っぱらだろうが真っ昼間だろうが真夜中だろうがどうしようもない事なんですよ。」
「だな。それを解消しなければ普通の生活に支障を来す場合もある。」
「あっ、あのっ…?」

───── ちょっ…おい…お前ら一体何言い出して…。

「新選組の隊士が一般市民の女性を手篭めにするような事になっては大事ですしねぇ。」
「女性ならまだいいんじゃないか?見境を無くして少年を手篭めにしては新選組の面目も丸潰れだ。」
「助三郎、面目丸潰れどころか笑いものですよ?」
「かもな………。」
「あっ、あのっ…助さん格さん?」

───── っ手篭めだぁ!?

「ん?どうかしたのか千鶴。」
「いっ、いえっ…っその…っこんな昼間から行くんですか?」
「だから千鶴、さっき格之進が言ってただろう?朝っぱらだろうが真っ昼間だろうが欲望が湧いてしまえばやるしかない。」
「時間も所も構わず、という所ですねぇ。」
「そうならない為に花街に行くんだ、誰も責める事など出来ない。」
「っそうなんですか?」
「違うのか?」

ってそれに同意を求められても俺達が認める認めない以前に
歯に衣着せぬ物言いに俺も新八も開いた口が塞がらなかったのだった。

───── 表情一つ変えずに昼間っから言う台詞じゃねぇだろ!










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2010.05.17