14.青いのはウサギじゃなくて新たなルート もっきゅもっきゅもっきゅ ごくん 会話の弾むスチル担当班を見ながら無言で夕食を頂くスチル担当班ではない私。 ぱりぽりぱりぽりぱりぽり ごくん 一心不乱に食事を取る事だけを考え、なるべくスチル担当班を視界に入れないよう努力していただって悔しいし。 とはいえ、最初の内は私だって考えた。 どうにかこちら側も盛り上がらないものか?と。 ずずずずずずずずずー…っ ごくん けれどそれも最初の内だけで、私は直ぐにその考えを改め諦めた。 っていうかどこをどうみても会話が弾まなさそうな面子が横並び状態でそれを求めた事自体間違いだった。 くどいようだがスチル担当班は私達の正面、左から平ちゃん新八っつぁん千鶴ちゃん左之さんが並んで座っている。 そしてスチル担当班の正面に座る私達はその彼らから見て左から沖田・・私・はじめ君が横並びに座ってる。 ───── 会話が成立する可能性はゼロね。 私とはともかく、沖田のヤローとの会話は成立しないっていうか会話する気もないらしく、 かといって私とはじめ君の間に会話があるか?と聞かれたらある訳ねーだろって即答出来る。 ───── ホント対称的だわ…。 あちら側が結婚式会場だとしたらこちら側は葬式会場ってとこだろう それくらい私達サイドは皆無言を貫き通していた ────────── が。 と沖田のヤローの間に何かが起こったように、この日私とはじめ君の間に起こってしまったのだ。 それまでの私は目の前のスチルを見るのに必死だった数日はともかく前しか見てなくて、 ”飽きた”を言い訳にして埋められないリアルな溝に軽く拗ねてご飯茶碗と味噌汁のお椀とオカズの皿と湯呑みしか見てなかった。 けど、スチルを見るのも止め、茶碗や皿を見るのも止めて何気に隣のお膳に視線を移すと ───── ………………ん? はじめ君のお膳の上の小鉢のきんぴらごぼうだけが不自然に残っていた。 そういえば時折、はじめ君は立ち上がるとスチル担当班の方へ自ら動く時があった。 その時必ず、手土産が如く小鉢を持参していなかっただろうか? ───── もしかして嫌いだから残してんのかも。 ごぼうが嫌いなのか人参が嫌いなのかは判らない。 けれどどうやらはじめ君はそれが苦手なんだろう小鉢を睨みつけつつスチル担当班の様子を伺っている。 察するにタイミングを見計らってるんだろうけれど、今日は上手くタイミングが見つけられないのか正座したままモジモジしてる。 ───── …………………仕方ないなぁ。 ここでのお残しはご法度。 食べ物を粗末にするような者は新選組には不要!と道場内にもデカデカと書かれてる。 嫌いを理由に残せない…けど食べられないどうしよう!ってモジモジするはじめ君に絆されても仕方ないっていうか、 隣から漂ってくる重苦しい空気から逃れたかったっていうか単なる気の迷いっていうかともかく。 「嫌い…なのか?」 「っなにを!」 さり気なく尋ねたつもりがはじめ君は面白いほど動揺してくれて。 もうちょっと突付いてからかおうかと思ったけどどっかの誰かみたいに仕返しされたらヤだし 「苦手なんだ。よかったら変えてもらえないか?」 はじめ君を立てるように言葉を選んで申し出ると 「……………すまない。」 私の心遣いに気付いたらしいはじめ君は恥ずかしそうに俯き、 小さくそう呟いて私の差し出したししゃもを受け取る ────────── まではよかったがっ! 「うおっ!?」 「どっ、どうした!?」 「っいや…。」 愛キャッチグラフィックが花開いたねぇそれ何フラグなの全然意味判んないからっ!!!!! 「おや…またですか助三郎。」 ってかアンタ今の今までそっちで沖田のヤローと睨み合ってたくせに何即座に反応してんの抗議してやる抗議っ! 今の今まで私の事なんか眼中になかったクセにこういう事にだけ反応する薄情(?)な奴には抗議だっ! との方に向き直った途端沖田のヤローがここぞとばかりに席を立ち、どさくさに紛れてはじめ君も席を立って 華やかな結婚式場…という名のスチル担当班の座る正面に移動してしまった。 その結果、葬式会場はより静かになり 「羨ましくはないの?」 「もう慣れたわよ。」 周りを気にせずガールズトークに華を咲かせる事となる。 「けど、アナタ本当に器用なのか不器用なのか判らないわねぇ。」 「大きなお世話よっ!」 「本命とは会話もロクに出来ないくせに周り…あら、もしかして外堀から埋める事にしたのかしら?」 「んな訳ないでしょっ!」 「それにしても今回のグラもかなりイイ出来だったわねぇ色はともかくとして。」 「青色ってのが意味判んないわね…。」 「さしずめ友人以上親友未満ってトコじゃないかしら。」 成る程、にしては上手く纏めたわね ────────── と納得したのも束の間。 「千鶴、最初からそうやって笑ってろ。俺らもお前を悪いようにはしないさ。」 「原田さん…。」 千鶴ちゃんを見て満足げに目を細めてる左之さんが見えた。 「くっ…。」 「悔しいの?」 「悔しいけど…けどっ!」 たとえその視線の先に私が居なくともっ! 艶っぽい表情を画面越しじゃない裸眼で拝める喜びが悔しさを越えた。 「イイ………!!」 「どこまでもオバカさんねぇは。その気になればあの視線を独り占めする事も可能だというのに。」 「何度も言わせないで。私は身の程を弁える事にしたのよ。」 「二兎追うついでにもう一兎…って言うでしょ。」 「二兎追う者は一兎も得らんないのよ全然違うからそれ。」 私の遙か上を行くオバカさんに言われても全然悔しくないから。 私は無理をして深手を負う位なら丁度イイ位置をキープする事に決めたのよ!!! 「既に二兎を手中に収めたくせによくそんな事が言えたものねぇ。」 「誰がいつ二兎を得た!?ふざけんじゃないわよっ!」 「そうね、どう見ても二兎というよりは大型犬と子猫ちゃんね。」 上手いなオイ…って感心してどうする私っ! 勝手に開いた愛キャッチグラフィックはどっちも愛じゃないっつぅの! 私は二兎どころか一兎も追うつもりはさらさら無いんだからねっ! と、再度に抗議しようとした時だった。 「ちょっといいかい、皆。」 神妙な面持ちの井上さん登場で、私の抗議は中断せざるを得なくなったのだった…。 そして、井上さんの口から大阪に居る土方さん達の近況報告があった。 内容は勿論私の知る事と寸分違わぬ物で ───── 眼鏡男子はこれを切欠に歪みに磨きが掛かりそうねぇ。 そういう事にだけ敏感なは的確に今後の山南さんの状況を分析する。 さすが我が親友、自分の興味を引く事に関して鼻の効きっぷりは尋常じゃない。 ───── けど新選組と新撰組の違いはどこにあるのかしら。 ───── 後で説明するわ。 ───── 今聞きたいのだけれど? ───── 長くなるから面倒なのっ! ───── あっそう…。 とはいえ結婚式場の会話を盗み聞きしてはイチイチ尋ねて来ないで欲しい。 何で今聞きたがるんだ空気読めバカめ。 ───── 千鶴ちゃんの表情が変わったわね。 ───── 沖田のヤローの表情に何も言えなくなったのよ。 ───── 沖田のクセに生意気な事。後でお仕置きした方がよさそうね。 お仕置きってアンタ達一体どんな関係なの!? ───── あら…千鶴ちゃん部屋に戻っていくみたいよ?追わなくていいのかしら。 ───── 少し考える時間あげた方がいいわ。 ───── なら私達はもう少しここに居た方がいいかしら。 ───── そうね。時間潰しがてらさっきの話の続きしてあげるから。 ───── 手短に簡潔に判りやすくお願いね。 知りたいのか知りたくないのかどっちなんだ一体!? ───── あ…。 ───── 何? ───── あれは仲間として意識した合図なのかもしれないわね。 ───── あれ…って? ───── 青い愛キャッチグラフィックを咲かせたはじめ君よ。 だから何で今それを話題の中心にするの………。 -------------------- 2010.07.26 ← □ →